■夏

  ひとつくらい幸せに!フランツとアルベール。
  子犬のワルツな二人♪(??) フランツ視点です。
     

  ***

君の季節がやって来る。
その笑顔のように、眩しく輝く季節。
うだるような暑さに脳の回路を溶かされても、体の力を奪われても、止むことのない蝉時雨に辟易させられても、夏を嫌いになれないのは、きっと君を思い出すからだろう。


「フランツー!フランツーッ!」
真夏の昼下がり。汗だくになったアルベールが、浴室を借りると半ば強引に上がりこんで来た。
駆け込んで行った浴室から届く大きな声に、今度は何事かと溜息がひとつ。開いていたモニターに表示された文章の末尾にチェックを付けると、俺はだるい体を無理矢理動かして電源を落とした。
そのまま、力の入らない足を引きずるようにして、呼ばれた先へと歩き出す。

「髪、洗って?」
浴室の窓から射し込む陽が、バスダブに張られた水面に反射している。目に飛び込む眩しさに目を凝らしてみれば、光の向こうにアルベールの姿があった。
水に浸かったまま、仰け反るように頭だけをバスタブの淵から出し、逆さにこちらを見やるアルベール。
常日頃、母親みたいだと俺に文句を言うくせに、その役割りを強いているのはお前の方じゃないか。要求された事項に対して、再び零れた嘆息には、そんな愚痴が混ざった。
「もう子供じゃないんだから、髪くらい自分で洗え」
「だって、フランツ上手いだろ? お前に洗ってもらうの、好きなんだよな」
邪気の欠片もない顔で笑われれば、俺が抵抗できるわけもなく。渋々を装って要求を飲む俺は、内心彼の言葉に間違いなく喜びを感じている。
彼の笑顔に敵うものなど、俺にも何もないのだ。
浴室の外から持ち込んだスツールをバスタブの傍へ、シャツを肘の位置まで上げると、シャワーヘッドを手に取った。
「ほら、目瞑って」
「ん」
目を閉じた彼の整った顔が、無防備に委ねられる。一瞬、まるでそれが壊れ物のように思えて、柄じゃないだろうと思考に首を振る。すぎた思いを打ち消すように、少々乱暴に髪を濡らしてやった。
黙っていれば、こんなに綺麗なのに。普段の騒がしさとの差異を思えば、少しおかしくなるほどだ。
きらきらと光る湯の下は、白濁として底が見えない。何故かそれにほっとする自分は、いつからか彼との距離を計り兼ねているのだろう。いつからか、親友という枠からはみ出してしまったこの感情に、俺は静かに蓋をし続ける。
「ああ、暑い…っ、お前のせいで俺まで汗だくだ……って、聞いてるかアルベール」
「ん……? ごめん、ごめん。後でお前も入ればいいじゃないか、気持ちいいよ」
その気持ち良さが、俺の犠牲の上にあることに、果たしてこいつは気付いているのか。とろんとした表情のアルベールに、言葉とは裏腹、胸のうちには愛しさが込み上げる。それだけで、この上がる体温から伝わる熱ささえも受け入れられるなんて、俺の頭は相当沸いているのかもしれない。
「そうそう、お手伝いさんにジェラート渡しておいたんだ。後で一緒に食べようと思って買って来たやつ」
「ジェラート?」
「うん、暑いからさ。寄って来たんだ。お前は家の中にいたから暑くないかもしれないけど」
どちからかと言えば、夏は嫌いだ。
襲う暑さは否応なく気力を奪っていくし、試験が近いというのに、うるさいほどの蝉の声が逆立つ神経となって邪魔をする。
けれど、彼と陽射しの元を駆け回って、木の陰に倒れ込む瞬間が好きだ。服のまま川に飛び込む彼が、悪ガキのような顔をして俺に掛ける、冷たい水の感触が好きだ。
痛いくらいの陽の光も、それはお前の笑顔のように降り注ぐ。
「いや、もう充分暑くなったから、早く俺も涼しくなりたいね」
火照る体に、冷たいジェラート。
君と食べるそれは、きっととても美味しいのだろう。
洗い終わった髪を乾いたタオルで包んでやると、輝くような彼の瞳と視線が交わった。



  ***

  ある意味、これも病んでるフランツと言えないか、苦笑。
  2007.8