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■彼の逃げ場所
お兄さん組と、フランツ。夜の集会。
ボーシャン視点、書いてるのは楽しいのですが、うまくいかないのは理想が高いからかしら、苦笑。
沖田的に、一番大人で、一番男前なのが、ボーシャンです。
そして、常に傍観気味(笑)
***
穢れなき者にとって、この世の中で生きるということは、どれほどの苦しみを伴うものだろう。
例えば、今も俺の目の前で、友人の書記官と酒を共にする彼は。
「大人になったら、もっと強くなれると思ってたのに――」
「それだけ飲めれば、充分だろ」
「そうじゃない……っ」
「あー……絡むな。ほら、これ飲んで早く寝ちまいな」
先程からくだを巻くフランツに、リュシアンは呆れた声をあげて応じていた。声色とは裏腹に、内心では相当彼を心配しているのだろうが、それを言葉にはしない。
近頃はこうして3人で酒を飲む機会も増えた。馴染みの店に限らず、俺やリュシアンの部屋であることも少なくない。
今日は秘書官殿の部屋に上がり込んでいるわけだが、毎度のことながら、この酒の席にアルベールの姿はなかった。
「……っ、いらない」
「ったく、しょうがない奴だな。そんな可愛くないこと言うようじゃ、アルベールと大差ないぜ」
「あいつと一緒にするな……っ」
差し出されたグラスを振り払う、余裕ないフランツの声。
会話はエスカレートしていくものの、それでも俺は、二人のやりとりに進んで口を挟んだりはしない。面倒見のいい友人があれこれと世話を焼いているから、俺の出る幕などは大してないのだ。
「あいつとは……違う……」
絞り出すようなフランツの声が消えれば、一気に辺りは音を失くしていく。支配するのは深い沈黙だけだ。
――最近。
俺たちの可愛い後輩は、見ていても少し痛々しい。もっと上手く、息を継ぐ方法ならいくらでもあるだろうに。純粋な彼にとって、それは難しいのだろう。
どちらを選んでも歪みを生む。その苦しみは如何ばかりなものだろうか。
もうずっと擦れた道ばかりを歩いている俺たちには、想像を巡らすことしか出来ない。
「――抱いてよ」
夜も深まった頃、もはや俺がいることすら酔った頭にはないのか、机に突っ伏したままのフランツが掠れた声で言う。素面ならば考えられない。相当酔っているはずだ。
「……フランツ」
「お前に抱かれたくて、ここに来たんだ」
「……とてもそんな状態じゃないだろう?」
「いつでも来いって言ったのはお前だろ……っ」
「だから、絡むな」
困惑の様子を見せるリュシアンには、思わず笑いが込み上げる。何しろ、そうそう見られないような、絶倫書記官の姿である。そして、自ら迫るフランツの図というのも、相当貴重であることには間違いない。
そろそろ俺は、静かに退散した方がいいんだろうか。このままベッドになだれ込まれては居場所がない、そう思ってリュシアンに視線を送ると、暗くフランツの言葉が漏れた。
「……重いんだ」
ぐっと、フランツの手は、リュシアンの腕に縋り付く。その内なる感情を持て余すように、助けを求めるように。
「大人になる度に、枷が増えていく」
とても酔っているとは思えないしっかりとした口調で、なおも彼は澱む思いを吐き出した。
枷とは、上手く言うものだ。今の彼に架せられたそれが、ありありと見て取れるようではないか。
そんなもの、取ろうとしたならば簡単に外せるはずなのに。彼が望む以上、俺達にそれを外す術はない。
「重いんだ……」
フランツはもう一度そう呟くと、慣れた様子で腕を伸ばし、リュシアンの口唇を自身のそれで塞いだ。極めて突発だったのだろう、目を見開くリュシアンは、それでも抵抗する様子は見せない。
熱烈なことで。いつもならそう冷やかしてやるところだが、とてもそんな気にはならなかった。
とりあえず視線だけは外して、部屋に響く粘膜の音を複雑な思いで聴く。少し悲しい気がするのは、あの可愛いフランツが、もはや子供ではないという事実にだろうか。
「……飲ませすぎたな」
盛り上がる間もなくフランツが眠りについたことを、俺はリュシアンの声で知る。見れば、酔っ払いのフランツは、リュシアンの腕の中で夢の中に落ちていた。テーブルの上の空いたボトルは二本。それも当然である。
「まるで子供だな、駄々をこねる」
愛しそうにフランツを腕に抱く友人に向けるその言葉の調子は、揶揄い半分だ。
「ああ、扱いに困るよ」
「……」
莫迦だな、と。本当はそう言ってやりたいのに、足掻くフランツに、足掻くリュシアンに、言葉にならない声を俺は心中で吐き捨てる。
「あんまり深みにまで入れ込むなよ」
もう遅いのだろうと分かっていても、自嘲の表情を見せる彼にそう言わずにはいられなかった。この時点で自分も同じなのだと、ぼんやりと考えながら。
――上手くいかないものだ。
可哀相で可愛い後輩たちが無邪気にはしゃぐ姿を脳裏に浮かべ、俺は馴染んだ煙を胸深くに吸い込む。
明日になればきっとまた、そんな光景を目にするはずだから、何とも彼らがいじらしいのだ。
***
ちょっと、フランツが崩壊してまいりました…?苦笑。
2007.2
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