■雨の七夕

  季節ネタです!
  寝不足のまま即興で書いた短文でございますので、どうか色々目をつぶってくださいませ!
  ここ50年、七夕の日に晴れたのはたった10日だそうで。
  80%は雨もしくは曇りだそう。
  



  ***



一年に一度しか会えない。
そんな、子供でも知っているような七夕の伝説が練の脳内を巡っていた。
たとえ一年に一度でも会えるのなら、それは幸せなことなのだろうか。
それとも一年も会えないと分かっていながらの一度だけの逢瀬は、愛し合う二人にとっては残酷なものなのだろうか。
もう二度と会えない、なくしてしまった男の姿を思い浮かべながら、この夜にもう一度彼と会えたならと、叶うはずもない願いを練は胸に抱く。
いや待て。今夜は雨が降っていた。
会えるはずもないと、いつしか七夕の夜の恋人たちに自分と彼の男をなぞらえて練は重い息を吐き出す。

どうにもまともな思考回路ではないらしい。

それもそのはず、昨晩から、熱が上がっていた。
朦朧としてきた意識にベッドへと倒れこんだのはもうどれくらい前のことだったか。
眠ってしまえば身体のだるさもとれるだろうと高をくくっていたのに、浅い眠りから覚めるほどに自分の身体が熱くなっていくのを感じる。
熟睡できない。
おかしな思考に支配されたまま、練はひとりシーツにくるまって寝苦しい七月の夜を過ごす。

それからまだ二度ほど夢うつつを旅した後。
隣に人の気配を感じた練は、てっきりそこにいるのは誠一だと思った。
目を開けたわけではない。だけれど、熱に浮かされたまま自分はあっけなく死んでしまって、あの世にでも行ってしまったのかと思った。
雨は止んだのだろうか。
それともあの世でならば、いつでも彼に会うことができるのだろうか。

「ん……」

頬に触れた手の感触に、練はゆっくりと目を開ける。
「お前、熱があるじゃないか」
緩慢に開かれる視界の先。
瞳に映る、一人の男。
「薬は飲んだのか」
分かっている。
誠一であるはずがない。
練は、またなにか、心の空洞を抉られたような心地に胸を冷やす。
しかし次の瞬間、思考を働かせると同時に、今まで身を沈めていた夢うつつの記憶は霧散し、あっという間に形が見えないほどおぼろげなものへと変化してしまった。
目の前にいるのは龍太郎だ。
彼を求めて、練は雨の東京を歩いてこの場所までやってきたのだ。
なぜ、誠一のことなど思い出していたのだろう。
「……りゅう、たろう」
「ほら、風邪薬。夏風邪はこじらせると厄介だ、早めに飲んでおけ」
「いらない」
「いらないじゃないだろ」
ふいっと、顔を背けると龍太郎は少しだけ語気を強めてから、呆れたようにため息をついた。
「まるで子供の駄々だ。いい年した大人がやっても可愛くないぞ」
「可愛くなくて結構だよ」
憎まれ口ならいくらでも口をつくのに、身体は熱のせいでふわふわとしていて全く力が入らない。差し出された薬に手を伸ばすことすら億劫だ。
「あんたが飲ませてよ、薬。だったら飲んでやる」
大人だろう、と、形になったかは分からないけれど、練は笑みを浮かべて龍太郎の顔をみつめる。
どこが大人なんだと龍太郎は文句をつけてきたものの、彼は用意した水と錠剤を口へ含むと練の上へ覆い被さるように身体を倒し、片腕を枕の横において体重を支え、もう片方の手で練の口元をやさしく押さえた。
ごくごく間近で、彼の視線がぶつかる。
指先でゆっくりと口唇をなぞられて、練は口を開いた。
「ん……――」
重なる口唇。
流し込まれる、生温かい液体。
彼に与えられる口づけを思い出す練は、自然龍太郎の熱い口内を求める。
だが無理に飲み込んだ水と錠剤のせいで、彼の舌を味わうこともできずに勢い咳き込んでしまった。
気道に水が入りこんでしまったのか、抑制できずにこみ上がる激しい咳が練の喉と肺を痛める。
「大丈夫か、おい」
口唇が離れていく。
行かないでくれと、練は咳き込む苦しさから涙を浮かべながら龍太郎の身体に鈍く腕を伸ばした。
その手は彼に捕らえられ、龍太郎の腕の中へと練の身体が包み込まれる。
抱き寄せられたままゆっくりと背中をさすられると、次第に荒い息が楽になっていった。
「水、もう少しいるか」
龍太郎からの問い掛けに、練は首を緩く振って応える。
頬を彼の胸に摺り寄せると、龍太郎はぎゅっと腕に入れる力を強くして練を抱きしめてくれた。
熱い。
発熱する身体と溶け合う熱で、体温はますます上がったように感じられる。
それでも、彼がこうして抱いていてくれるのならばきっと穏やかな眠りへ落ちることができるだろう。
身体の力を抜いて、練は再び目を閉じる。
ふわりと身体が浮かぶような、いや、身体が沈み込むような不思議な感覚が襲ってくる。


刹那、閉じた瞼の裏側に誠一の姿が浮かんだ。
なぜだかきゅっ、と胸が痛む。

しかしその姿も、あっという間に龍太郎の熱に溶かされ眼下から消えてしまった。

どこまでも冷めている意識下の自分が心の底で嘲笑を漏らした気がしたけれど、急速に眠りに落ちていく練には、今あるぬくもりを感じることしかできなかった。





  ***



  ちなみに夏風邪をひいていたのは、沖田です(笑)
  その時に頭くらくらさせながら練が熱出す妄想をしていたので、七夕ネタと絡めてみました!
  なんだか……言ってること支離滅裂な気がするなあwww

  皆様はどんなお願いを七夕にしたのでしょうか?
  私はもちろん! 練の幸せを祈ります!!←
  2011.07.07