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■0121
練お誕生日話です!
ブログに載せるだけに留めておいた方がいいような、そんなお話にしかなりませんでしたが、読んでいただけると嬉しいです♪
なんてことないバカップル……(笑)
***
時刻はもうすぐ深夜一時をまわる。
閉店間際のバーには、カウンターの中でグラスを磨くマスターの他には、客は練ひとりしかいなかった。
飲みはじめて、どれくらいの時間が経った頃だろうか。
「よく、ここにいるって分かったね」
背後に人の気配を感じて、練はスツールに腰掛けたまま振り向きもせず言った。
「お前が俺の動向を逐一把握するようにはいかないが、俺だってある程度の情報は入ってくるんだ」
「大袈裟だな」
「そうでもないだろう」
龍太郎は、そう言うと練の隣へと腰掛ける。
練はわざとそっぽを向いてから、ダンヒルに火をつけて煙を深く吸い込んだ。
龍太郎がため息をついた音が、はっきりと耳に届く。
「お前、携帯の電源切ってるだろ」
「なに、電話してくれたわけ? 珍しいこともあるもんだね」
「茶化すなよ。わざとだろ?」
あきれたと言わんばかりの龍太郎の声に練は何も反応を返さず、煙草を静かにふかす。
しかし平然を装いながらも、練は胸がどうしようもなく高鳴っていくのを感じていた。
龍太郎は、自分に会いにきてくれたのだと。
時刻は十二時をまわってしまったけれど、それでも彼は今日、わざと携帯電話の電源を落として龍太郎を待っていた練を探してくれたのだ。
あれこれ考えて、一日中落ち着かなかった。きっと龍太郎は今日が何の日かなんて覚えていないと思っていたのに。
駄目押しのように、数日前、予定が空いているかどうかそれとはなしに窺ったことが効いたのだろうか。あの時彼は、仕事が立て込んでいると言っていたのに、どうにか都合をつけてくれたらしい。
「なにか」
「いや……、ペリエを」
注文を聞いたマスターに、龍太郎が答える。アルコールをよしとしないなら、きっと車で来たんだろう。
会いに来てくれて嬉しいのだと、どう伝えよう。はやる心で練は思案する。
このダンヒルを吸い終わったら。ゆっくりと呼吸を繰り返して、高まった気持ちが少しでも落ち着いたなら。龍太郎の手を引いて、店を出ようと思う。
彼の身体が何時まで空いているのかは分からないけれど、できるだけ今夜は一緒にいてほしい。
何もいらないし、何もしてくれなくてもいい。彼は自分のいる場所を探してくれた、それだけで十分だ。ただ彼の体温に触れていられるなら、行く場所なんてどこでもよかった。
そう、練の心は浮かれていたというのに。
「それで、今日は何か用事でもあったのか」
何らためらうこともなく告げた龍太郎に、思わず練は龍太郎の方へと顔を向ける。視線を合わせれば、彼は疲れたような、あきれたような表情でこちらを見つめていた。
煙草の灰が、振り向いた勢いにテーブルの上へと落ちていく。
「分かってないのに来たの?」
「そんなの、分かるはずがないだろう」
龍太郎の言い様に、練は返すべき言葉をなくした。
分かるわけがないだなんて。
ならばどうして、今日、龍太郎は居場所の知れぬ自分を探してまで、ここへ会いに来たというのだろう。
「お前が二十日は何してるのかって、何度か聞いてただろ。だから、」
「何度もなんて言ってない」
「言ってたよ。お前は酔っ払って覚えてないかもしれないけど」
酔っ払って、なんだ。
自分は龍太郎に、何を言ったのか。どうしても会いたいのだと、アルコールに侵された状態でねだったと言うのだろうか。
「なのにお前の携帯には繋がらないし、何の嫌がらせかと思ったぞ」
随分な言い方だと思った。
しつこくねだったから龍太郎は仕方なく会いに来てくれただけで、彼の行動に自主性など欠片もなかったのだろうか。
どうせ、いつもの我侭だと思っているに違いない。
それをすっかり、彼は気付いているのだと勘違いして。
心を躍らせて。
なんて滑稽なんだろう。
そう思えば、練の心は音を立てて冷めていくようだった。
酔っ払って駄々をこねて強引に彼を呼び出したに過ぎなかったというのに、喜んでいた自分はまるで馬鹿みたいじゃないか。
「帰る」
練は短くなった煙草を灰皿に押しつぶして、スツールから立ち上がる。
「おい待てよ」
代金をカウンターの上に数枚放るように置くと、その隙に龍太郎が練の腕を引いた。
練はむっとしてその腕を振り解き、足早に店を後にする。うっかり油断したならすぐにでも泣いてしまいそうで、無意識に口唇を噛んだまま、冷えた夜に飛び出していく。
龍太郎の一挙一動に振り回されて、期待して、裏切られて、諦めて。
期待する方が間違っていると分かっている。自分と彼は別々の人間でしかなく、等しく想いを共有するなんて不可能なことだ。
だからこそ、まだ彼の心は自分の元にあるのだと確認せずにはいられない。
不安なのだ。
そうでもしなければ、自分が立ちゆかないほどに。だから今日も携帯電話の電源を切って、彼を試すような真似をした。
こんな愛ならば、いつか破綻してしまうだろうと危惧しているのに、それでも練は龍太郎を愛することをやめられない。
強すぎるこの想いが苦しい。
押し潰されてしまいそうだ。
気付けば練の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。視界がぐにゃりとぼやけて、歩くことができなくなる。
たとえねだってでも自分を捜しに来てくれるならば、それだけでいいじゃないか。
せっかく龍太郎は来てくれたのだ。それで満足すればいい。
そう思うのに、どうしても今日は譲れない。自分の仕様のない意固地さが情けなかった。
いつの間にか、練はあれもこれもと貪欲になっているのだ。
傍にいたい。身体が欲しい。心が欲しい。龍太郎の全てが欲しい。
ひとつを手に入れれば、次へ、次へと、求めるものが増えていく。
立ち止まってしまえば、ぶるりと身体が震えた。
外気は凍てつくほどに冷たく、ひどく寒い。
当たり前だ、コートすら羽織っていなかった。
感情的にならなかったら、今夜は龍太郎の熱を感じられただろうにと考えて、余計に止まらくなった涙が地面を濡らしていく。
胸のうちでは感情がごちゃまぜになっているというのに、心はどうしようもなく龍太郎を求めている。
「待てよ」
気が付くと、龍太郎の熱が再び練の腕を捕まえていた。
「練」
名を呼ばれて、無理に噛み殺した嗚咽に肩が揺れる。
「俺はどっか足りてないんだ。お前の願いは、いつだって見当違いにしか理解してやれないし、ましてや叶えてなんかやれない」
背中からふわりと、肩にコートがかけられた。店に忘れてきた自分のコートではない。龍太郎の匂いがする。
「だけど分かりたいって思ってるよ。今日だって、お前の望みを叶えたいって思ってたんだ。だからお前を探した。仕事が終わって、もう眠ってしまおうかとも思ったけど、お前の言葉を思い出したら会いに行かなくちゃいけないって、気付いたら車に乗ってたよ」
ぎゅっと、背中越しに練の身体が抱きしめられた。強い力。欲しかった感触だ。
「……俺、」
「うん?」
「今日、誕生日なんだよ。覚えてた?」
声がかすれる。
「あきれた? そんなくだらない理由で、会いたいって言ってたなんて」
「あきれない」
抱きしめる龍太郎の腕の力が強くなった。
「くだらないなんて思わない」
練は胸に回った彼の腕を、両の手でぎゅっと掴む。
素直になれば、こんなにも龍太郎は近くにいてくれるのに。
「会いたかったんだ、すごく」
本心が自然と口をついた瞬間、練の身体は龍太郎によってくるりと半回転させられ、正面からその胸の中へと抱きとめられた。
それはとても強引で、痛いと感じるほどに抱かれた力は強い。
練は身体に感じられる強さにうっとりと目を閉じた。次に続く言葉を期待したのだが、耳元には小さく龍太郎が耳打ちをした音が響く。
「龍、太郎……?」
「俺は、たまに嫌になるよ。どうしてこんなにもお前のことで振り回されなきゃいけないのかって」
それは、練だって同じだ。
想いは強くなるほどに空回りして、うまくいかない。龍太郎の言動に振り回されてばかり。今夜だって、惨めったらしく泣いている自分の情けなさときたらどうだろう。
「こんな歳にもなって、どうしてお前に恋しなきゃいけないのか。それでも、」
恋、という言葉に、胸がきゅんと鳴く。
「お前が好きだよ」
練の息が、意図せずひゅっと音を立てた。
こんな状況で、とんだ殺し文句じゃないか。
堪えきれなくなって、練は龍太郎の胸に顔を押し当て小さく泣き声を上げた。
龍太郎は、自分に恋をしていると言う。練が龍太郎に恋焦がれて仕方ないように、彼もまた自分に焦がれていると言うのだろうか。
この行き場のない苦しさを、龍太郎も同じように感じているんだろうか。
「俺も、だよ」
不器用だから、次はいつ素直に想いを伝えられるかなど分からないから、練は無理に声をしぼり出して、その一言だけを伝えた。
だから、あんたをどうしても手放せないのだと、声にはできなかった想いをこめて、龍太郎の身体をきつく抱きしめ返す。
コートなど必要ないほどに、そこは温かかった。
「お前はいつも泣いてるな」
あんたが泣かせるのだ、と心の中で毒づく。
「俺はお前の泣き顔を見てばっかだよ」
その顔すら好きだと言うのは、一体どの口だ。
龍太郎が頬の涙を指先で拭う。
ゆっくりと目を閉じると、口唇は、龍太郎からの口づけによってふさがれた。冷たかった口唇が、キスによって急速に熱を取り戻していく。
「んっ……んん……」
角度を変えては柔らかな口唇に吸い付き、熱くなった口内を互いの舌で堪能する。
雑多な街中にあっても、周りの様子など少しも気にならなかった。もちろん、人気がないことくらいは承知の上だけれど。
龍太郎の舌先で粘膜を丁寧に愛撫され、練は甘く息を漏らす。身体に火がともる。
喘ぐほどに激しくなる口づけに、二人は夢中で長いキスを味わった。
「なあ、練」
「ん?」
「お前はいいだろうが、俺はそろそろ凍えそうだよ」
コートを羽織った上に龍太郎の胸の中へと抱きしめられている練とは違い、薄着のままの龍太郎はそろそろ限界を感じていたらしい。
「ムードぶち壊すね、あんたも」
「寒いんだ、仕方ないだろう」
練は笑って、離れがたい龍太郎の身体から腕を離し、彼の隣に立った。
「それで、お前のプランでは今夜はどうするのが理想だったんだ」
「プランなんかねえよ。あんたが俺を探して、みつけてくれるとこまでが俺の望みだったの。あんたはそれを叶えてくれたから」
本当は誕生日なのだと、思い出してくれたなら嬉しかったけれど、この野暮天にそんなことを願ったこと自体が贅沢だったのだろう。今なら苦笑まじりにそう思えた。
「でも、何かひとつくらい……」
「お願い聞いてくれるって?」
無茶なことじゃない限り、と、きちんと付け足す龍太郎が可笑しい。
「ないよ」
練は足を踏み出して、言葉を続けた。
「何もない。ただ、今夜は時間ぎりぎりまで一緒にいてよ」
「それだけか」
隣を歩く龍太郎が問い掛ける。
それだけか、と言われたけれど、それが何より自分たちには貴重な時間なのだ。それを、龍太郎は分かっているだろうか。
「そう。良心的だろ、俺」
「一言余計だ」
そうして束の間、二人は幸福な時間を共有する。
久し振りに触れ合う互いの素肌に、練は快楽に涙しながら手にした喜びを噛み締めた。
龍太郎は、ちゃんと分かっていたのだ。
練が翌朝に目覚める瞬間まで、何を匂わせることもなく、練だけを愛してくれた。練は何ひとつ疑うことなく眠りにつき、龍太郎の熱を肌に感じたまま、幸せな夢を見る。
目を覚ました瞬間、隣に龍太郎がいない事実に泣きそうになっても、身体に残る彼の感触が、耳に残る声が、練を支えていてくれるようだった。
***
龍太郎は練の誕生日なんか覚えてなさそうだ、という妄想から生まれたのですが……
練が、原作のお話の後に、俺の誕生日1月20日なんだよ!と、何回か言ってたら覚えてるかもしれないけど!(笑)
そして、誕生日を一緒に迎えられる展開には、原作を読む限りだと時期的に無理がある気がするのですが……
そこは沖田お得意の捏造ということで、ご勘弁いただけると幸いです!(またそれか
ハッピーバースデー練! 練が幸せでありますように!
2011.01.20
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