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■昨夜のみつごと
ずっと放置していた作品なのですが、リクエストがありましたので、アップすることになりました!(汗っ
高安弁護士を書きたい!!と思って、書いた作品だったのですが、どうにも気に入らなくってお蔵入り……
イメージが違うよ! とか、ごもっともなご意見をいただくかとは存じますが、
直すのも大変なので、恥を忍んでアップしちゃおう!(笑)
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「いてて……」
「どうかしましたか」
「顎が、痛くって」
高安弁護士事務所に手土産持参でやってきた練は、大口を開けた途端顎に走った痛みに、顔をしかめた。
土産になるのかもあやしいところだが、頬張ろうとしていたハンバーガーのひとつは、口に入る寸前で、いまだ原型を留めている。
「がくがくする……」
「関節ですか?」
「うん。昨日、頑張りすぎたかなぁ……」
手の平で顎のあたりを押さえ、昨晩の記憶を辿る。
随分と長い間、昨夜はこの口に龍太郎のものを含んでいたからだろう。開きっぱなしだった口に、一晩経った関節は痛みを訴えている。
シングルベッドに腰掛けた彼の前で、その長い脚の間に跪き、飽きることなく苦い精液の溢れる性器にしゃぶりついた。
龍太郎の感じる顔を、下から見上げるのが好きだ。
吸いついている時、髪を絶え間なく撫でられている感覚が好きだ。髪に触れた指に、時折快感のせいでぐっと力が入る。その強さすら、心地よかった。
気付けばいつも、夢中になるように口淫に耽ってしまう。
「これは、野暮なことを訊いたようですね」
「そんな、あからさまに嫌な顔しなくてもいいでしょ?」
「貴方に対してではありませんから、お気になさらず」
ハンバーガーを片手にしたまま、練は笑う。
「龍太郎?」
「そう、その男ですよ」
肩を大袈裟に上下させる高安は、龍太郎とは犬猿の仲だ。二人の間に何があったというわけではない。ただ、水と油のように、互いに相入れない存在のようである。
「あんな頑なな男に、奉仕してやる必要がありますかね」
「俺だって、腹立ってるよ」
「なのに会いに行って?」
「身体はね、心に反して疼くものなの」
堂々巡りで、何もかもがうまく行かない。
こんなにも愛しているのに、どうしてうまく行かないのだろう。離したくないと思えば思うほど、溝は深くなる。
身体だけを重ねて、それは虚しいだけだと痛いくらい分かっていても、龍太郎の熱を求めずにはいられない。焦がれて、抱かれて、空虚さを感じる、終わりのないスパイラル、悪循環だ。
高安の目には、きっと自分たちの姿が滑稽に映ることだろう。
「いたた……」
手に持ったままの幾分冷えたハンバーガーにかじりつくと、やはり顎がきしり、と痛んだ。
「先生は? 食べないの?」
手がつけられないままの袋を見やり、練が問う。
「マクドよりモス派だったりする?」
「いいえ、いただきますよ」
練のものとは違う水色の包装を解き、高安がハンバーガーにかぶりつく。ダークグレイのスーツを着こなし、今日も長い髪をきっちりと結ぶ彼のそんな姿は、少々不釣り合いであった。
「俺もそっちにすればよかったかな」
隣の芝生は、というわけではないが、高安が口にする種類の違うハンバーガーを見て、練はごく軽い調子で話す。
「……食べます? 少し欠けてますが」
「うーん……一口でいいよ」
マヨネーズとてりやきソースで口端を汚す練は、高安の手に顔を近付け、一口分高安の歯型が残るハンバーガーをがぶりとかじった。
さくっと揚がった魚のフライに、表情が緩む。いかにもジャンクで、身体に悪そうな味でも、無性に食べたくなる時がある。
大見得張ることだけに命をかけるヤクザだが、練としては知ったことではない。たとえ幹部という立場であろうと、食べたいものは食べたいときに食べる。誰に何を言われようと、お構いなしだ。
「ありがと」
咀嚼してからにっこりと微笑みかけると、高安はうっすらと困惑の表情で笑った。
「なに?」
「いいえ。ソース、ついてますよ」
伸ばされた指が、練の口角を捕らえる。子供にするように指の腹でソースを拭うと、高安は何の抵抗もなく、そのソースを自分の口唇に当てて舐めとった。
「あの男の苦悩も、分からないではないんですけどね」
「龍太郎の味方なわけ?」
「まさか。それは有り得ませんよ、私が惚れこんでいるのは、貴方ですから」
あっさり言ってのける高安に笑い、痛む顎を酷使してハンバーガーを頬張る。
痛覚が刺激されるたびに昨晩の記憶が甦ったけれど、練はしくしくと軋む胸の痛みには、気付かない振りをし続けた。
「ご馳走さまでした」
そうでもしなければ、足元から崩れてしまうことは必至だ。
「……さて、こっからは仕事の話だ、先生」
顔つきをがらりと変える練に、高安もまた食べ終わったハンバーガーの包装をゴミ箱に放り、仕事の顔へと切り替える。
眼光鋭く、白を黒に変える、敏腕弁護士の表情は怜悧である。だからこそ練も、ここからは仕事なのだと、余計なことは考えずに済んだ。
必要以上には踏みこんでこない、干渉をしない高安の態度が、これ以上なく好ましい。
練も、食べ終わった包装をゴミ箱へと放り投げる。
もう何度目か、愛しい男の顔が浮かんできて、じんと、顎が痛んだ。
***
当時のマックの包装ってどんなんだっただろう……??←
2009.10
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