■Trick or Treat!

  まだまだ日本では定着している!とは言えない気もするハロウィン。(宗教的な意味合いは全くなく、おまつり的な意味で、笑)
  でもハロウィンの時期は、お店のディスプレイやグッズを見ていると、なんかワクワクしますvv(いい大人が……)
  練もはしゃいでてくれると、なんかいいなーvv

  大量に砂糖を吐けそうな、激甘注意報発令です(笑)
  
  
  ***



「Trick or Treat!」

「……は?」
事務所のドアを開いた麻生は、目の前に立つ練が放った言葉に、ぽかんと口を開けた。
しかし、にこにこと笑う練はなおも、
「Trick or Treat?」
馴染みない英語を舌に乗せる。
玄関先だというのに、口付けをするように近くなる顔。練はあどけない、けれど艶を含んだ表情で、上目使いに麻生の瞳を覗き込んでいた。
「何だよ、いきなり」
自分に向かってかけられた、訳が分からない英文に、麻生は問う。やたらと発音だけはよくて、呆気にとられた頭では何をしゃべったのか、単語を組み立てることもできやしない。
「トリック……なんだって?」
「……つまんない男!」
「おい……っ」
ぐっと身体を退けられ、練が強引に事務所に入ってくる。
にこにこ笑っていたかと思えば、一転むくれて吐き捨てた練には、ますます困惑するばかりだ。
後ろ手にバタンと、大きな音を立てて閉められた扉に、麻生は首を傾げるしかできなかった。


「ハロウィンでしょ、今日はさ」
「ハロウィン? あんなの、アメリカの祭りだろ」
「あんた、『E.T』観たことないの? 日本にも少しずつ浸透してきてんだよ。デパートとかでもさ、ハロウィン用のお菓子とか売ってんでしょ?」
練としては同意を求めているのだろうが、なにしろ菓子が売っているコーナーなどにはほとんど近付かない麻生が頷けるはずもない。
曖昧に返事をすれば、練はまたため息を吐いた。
「つまんないの」
「そもそも子供の祭りじゃなかったか?」
「いいんだよ、大人だって関係ねえの」
大人と呼ばれる年齢になって、一体何年が過ぎたんだと言いたくなったが、すんでのところで言葉を飲み込む。言ってしまえば、また練の機嫌が悪くなりそうだ。
確かに、こんなところは子供っぽいと言うしかないのだろうが。
「そういえば、さっきの英語はなんだったんだ?」
「Trick or Treat?」
「そう」
「あんた、ほんとに知らないんだね」
細めてこちらを見やった練の視線は、ほんの少しの蔑みが含まれているようだったが、麻生はそれを流して会話を続ける。
「Trick or Treat、お菓子をくれないといたずらするぞって意味だよ。仮装してゴーストや魔女になった子供たちが、人んちのドア開けて言うんだ。お菓子をもらえれば、いたずらはしないの」
「いきなりそんな請求されたんじゃ、たまったもんじゃないな」
「いいんだよ、みんなちゃんと用意して待ってんだから」
宗教的な意味合いは分からないが、いかにも子供たちが好きそうなイベントだと思う。両手いっぱいに菓子を抱えた小さなゴーストたちは、きっと愛らしい存在に違いない。
「で、お前も菓子が欲しかったわけか?」
いい大人に問うのも馬鹿らしい話だが、どうにも練相手には、様々な違和感が消えてしまうようだ。さらりと口をついた問いかけに、練は口唇の先を少しだけ突き出していた。
「お菓子なんか要らないよ、子供じゃあるまいし」
甘いものが好きなくせに、と言ってやりたいところだが、これもまた口には出さない。
「じゃあ、何が欲しかったんだよ」
「あんたが、あのままキスしてくれたらよかったかな。甘いお菓子の代わりになるような、濃厚なやつをね」
間近に迫った艶めいた顔には、そんな意味が込められていたとでも言うのか。いたずらに練の瞳が語る。
「ハロウィンの風習さえ知らないのに、そんなん分かるわけないだろ」
「もういいよ。それをくれなかった龍太郎には、いたずらするだけだから」
「……は?」
またも間抜けな声を出した麻生の前で、練が笑う。
「お菓子がもらえるにしろ、いたずらするにしろ、どっちだって子供には嬉しい日だよね」
「だから、お前はもう立派な大人だろ……って……っ」
思わず裏返った声は、間合いを詰めた練が、密着した身体で脚を絡ませてきたからだ。床を踏みしめる二本の脚の間、膝を割って妖艶に巻きつく練の長いそれ。
完全に間に入り込んだ脚は、太腿のあたりで円を描くように、麻生のまだ鎮まった欲望を煽る。
「ちょっ……練っ」
今は真っ昼間だと、言いかけた口唇は、そっと触れられた練の指によって言葉を封じられた。
声をなくした麻生の視界を捕らえたのは、キスをねだる視線。
「Trick or Treat?」
見つめていれば、赤く濡れた口唇が開き、再び呪文のような言葉を囁く。
麻生は顔ににじむ笑みを抑えることも叶わず、緩んだ表情のままで練に口付けた。
互いの鼻先が触れ、口唇が重なり合い、同時にふわりと漂ったのは、カカオの香だろうか。
舌を絡ませれば甘い香りは強くなり、深くなるキスにほんのりとチョコレートの味が混ざった。
「チョコレート?」
「うん。さっきまで、食べてたから。甘い、キスでしょ?」
ずいぶんと準備がいいことだと、麻生は微笑する。
子供が喜ぶ季節行事に自ら進んで踊らされている練が、なんとも可愛らしい。
自分一人だったら、クリスマスすら祝うことなどないだろう。正月に浅草寺に行くことすら、人ごみのせいで躊躇うくらいだ。
「ん……っ、ん……」
砂糖菓子のようなキスは、ときおり互いの口唇をはみ、止まることなく降り続けて麻生の舌に甘さを伝える。
「ん……」
「けど、俺には少し、甘すぎるな」
「それなら大丈夫だよ。してるうちに、消えちゃうから」
だんだんと深くなる口付けは、重なるたびに甘さが唾液に溶けていき、舌を絡めるほどにいつもの味へと戻っていく。
それは、とても子供じゃ味わえない、大人の味のハロウィンだ。
やはりこの方がいい。
チョコレートの味が感じられなくなった口唇を合わせながら、麻生は思った。




  ***

  ハッピーハロウィン!!(笑)
  2009.10