■お誕生日SS

  お誕生日なので何か書かねば!!
  という即興文なので、期間限定で下げたらごめんなさい!
  まだ大島に龍太郎がいる頃かな? 1月ってどうだろう!?
  
  ***


カチ、カチ、カチ。
真夜中の部屋には、秒針が刻む時の音だけが、やたらと大きく響いているように思えた。
薄い窓からは、寝静まる街に走る車の音も、遠くに鳴るサイレンも聞こえるのに、どうしてか耳ざわりなのは、先程からずっと、壁にかかる時計の音ばかり。
規則的なその音をやり過ごすことが出来ないまま、進む秒針は孤独感を煽って神経を蝕んでいく。
忍び込んだ龍太郎の部屋に一人、練はソファに身を投げ出して、両手で耳を塞いだ。
なぜ、あの男はまだ帰って来ないのか。
じわりじわりと苛立つ心に支配される練は、神経が擦り切れる音に耐えられず、携帯電話を手に取る。
時計の針との睨み合いを始めてすでに二時間。持ってきた酒は、すっかり底をつきてしまった。
彼が仕事をしているだろうことは予想できても、指は迷わず、ひとつの番号を選び出して通話ボタンを押した。
ダイヤル音が一回、二回。電話は遠く、どこにいるかも分からない龍太郎を呼ぶ。
三回目、早くも練の眉間に深い皺が寄った。
四回、五回、呼び続けるコールに下唇を噛み、鳴り続けている時計を睨む。

すれ違いなど、珍しくもない。電話をかけたとして捕まらないこともあるし、部屋に押しかけたとしても帰って来ないこともある。
けれど今夜は、どうしても龍太郎に会いたかった。

十回目、ようやく、小さな端末からの呼び出しは龍太郎の耳元へと届いた。


「どうして俺が電話したか、あんた分かってる?」
分かるはずもなかろうと、思ってはいても、嫌味が口をつく。
案の定、問いかけには口を濁して返した龍太郎に、練はため息を吐いた。
「誕生日なんだよ、今日、俺。あんたは、きっと覚えてないんだろうけど」
語尾に向かって言葉のトーンが下がる。
人の誕生日を覚えていられるような男ではないと分かっていた。しかし、せっかくやって来たのに顔も見れないなんてあんまりだ。
せめて、龍太郎の体温と共に、ほんの少しの時間を一緒にいたかったというのに。
「言ったよ。あんたが覚えてないだけでしょ」
特別なことは何もない、ただ、自分が生まれた日が三十数年前の今日だったというだけ。それだけでも、この一日に、一人むなしく過ごすことは耐え切れない。
昨年の今日はそう、今は亡き男に抱かれていた。
誕生日だという話をしたかどうかは覚えていないけれど、あの日、練は間違いなく誠一と共に夜を越えたのだ。
一人でいると、殊更その記憶を思い出すようでやり切れなかった。
「これからの予定? 別に、俺は暇だから来てるんだよ。予定があったら、来れるはずないじゃん」
これだけ歳を重ねれば、ひとつ数字が増えたところで素直になれない性格が変わるはずもなく、龍太郎が今から帰るからと告げる言葉にも、可愛くない返事しか出来ない。
「……そんな、仕事なんでしょ? 無理しなくていいよ」
電話越しの声が急いている。
きっと、慌てて帰る算段を取っているのだろう。
単純な男だと、練は思う。
だけど、本当はそんな龍太郎の言葉が嬉しくて、顔が緩んでいるだなんて、みっともなくて、とても龍太郎に気付かれるわけにはいかなかった。
「……ばかやろう」
一方的に悪態をついて、強引に切った回線。ツーツー、と電子音を耳にしながら、練の鼓膜には龍太郎の甘い声が響いていた。

『お祝いの言葉は、会ってから言うことにするよ』

再び静寂に包まれた部屋では、時計の音が主張を始める。
しかし、練はしばし携帯電話を握ったまま、龍太郎の言葉を反芻していた。
耳をつく秒針の音を越え、練は立ち上がると脱ぎっぱなしのコートに腕を通す。
衣擦れの音に、踏みしめる床が鳴る音に、小さな時計の動きは掻き消されていく。
近くのコンビニに、酒を買いに行こう。
空けてしまったボトルをキッチンに置いて、練は寒空の下へ歩き出す。
龍太郎が帰るまで、まだ一時間はかかるはずだ。その間、部屋でじっとしていることはできそうになかった。
蝕む記憶に捕らわれないように、龍太郎の甘い声だけを頼りに練は前を見据える。
一時間後には、きっと彼の腕の中にいるだろう。
その期待が、練の背中を押した。



  ***

  
  龍太郎の出番がない!!(苦笑)
  2009.1.20