■幻影

  * 微エロ注意でございます。

  というか、微エロが問題なのではなく、趣味に走ってしまったのが問題!
  それを載せる、これこそ自虐プレイ!!
  そして、あまりに長い間腐として生きておりますので、さじ加減が分からなくなっている悲劇!
  キャラ崩壊が過ぎる!というお怒りを受けそうなので、ご注意下さいませっ
  暗いです(笑)

  
  ***


「練……!?」
キッチンまで響いたガシャーン、という派手な音に、麻生は慌てて練の元へ駆けた。
様子が変だと、気付かなかったわけではない。よく絡んできて、よく喋って、よく飲んで、これだけ見ればいつも通りだったわけだが――。
「練!!」
練が手にしていたグラスは床に砕け、黄金色した酒と、透明な氷が一面に広がっている。
ソファーに腰を掛けていたはずの練は、崩れるように横倒れをした体勢で、床に向かってだらりと腕を伸ばしていた。ついさっきまでその手には、グラスがあったはずなのだ。
「おい、練!」
すっと、血の気が一気に下がる。
体調が悪かったのか、それとも、とうとう酒が限界を超えたのか、麻生の頭の中を様々な可能性が駆け巡った。
――なぜ気付かなかった? 激しい後悔と共にだ。
「龍太郎……」
「お前、大丈夫か!? 今、救急車呼んでやる」
「馬鹿、なんだよ救急車って……。大袈裟だなあんた」
どこかその口調は、呂律が回っていない。
「駄目だ、救急車呼ぶのが嫌なら車出してやるから、病院行くぞ」
「だから、大丈夫だって。ちょっと、手元狂っただけだよ」
何が狂っただけなのか。ぐったりと倒れこんでいた様子からは、とてもそんな安易な結論には至らないだろう。
麻生は伸ばされた練の腕をとり、その身体を抱き起こす。どきりとするほど、肌が熱かった。
「ごめん、グラス割っちゃった」
「いいよ、そんなもん」
照明を受けてキラキラと輝く床の残骸に、麻生は視線を向けることなく言う。練を抱き、その身体の異常の有無に心臓を高鳴らせ、回す腕に力をこめた。
思えば、今夜は普段より感情の浮き沈みが顕著だったように思える。笑っていたかと思えば、いきなり黙りこんだりと、どこか、情緒が不安定だった。今夜は珍しく酔っているんだろうと、流していた自分が不甲斐ない。
「気持ち悪くはないか」
「大丈夫」
しっかりとした口調で返され、麻生は触れた存在の確かさにようやく安堵するものの、嫌な想像はとめどなく浮かび、胸は早鐘を打った。
とても安心はできない。練の『大丈夫』は、当てにならないと分かっているからだろう。
「本当に、か?」
「くどいな、あんた。ほんとだって。だから、お代わりちょうだい」
「…な……っ、」
抱きしめた腕の中で、とんでもない発言をする練に、麻生はかっとなって怒鳴る。
――馬鹿か、こいつは!!
耳を疑うような、練の発言だ。
十中八九、原因は酒の飲みすぎなんだろうが、倒れた練など初めて見たのだ。この上、更にアルコールを入れるだなんて、到底許可できる話ではない。
「何だよ、耳元でうるせえな……。駄目なら水でいいよ、水で」
「当たり前だ……!」
倒れた本人だというのに、よほど麻生より冷静な練だ。その様子に、思わず溜息が零れる。
水分を欲しがる練は、おそらく喉が渇いているのだろう。酒の大量摂取を受けて、体内ではアルコール分解が急ピッチで行われているはずだ。もっとも、この状況からすれば、それも追いついていないことは明らかだが。
「本当に、大丈夫なのか。苦しいとことかないか」
「ないってば。あんたって、心配性だな」
背中に回した手に、再びぎゅっと力を入れる。
息も上がってない、舌が回っていなかったのも最初だけ、心臓の音も平生より幾分早いだけだ。
とりあえず、病院には行かせるとしても、急を要することはないだろうか。
「いいか、そこで大人しくしてろよ」
練の髪が首を撫で、頷いたことが分かる。
麻生は抱いた腕を離すと、床に散らばる硝子片もそのままに、キッチンへと戻った。
汲んできた常温の水を練に手渡してから、再びキッチンに立ち、冷蔵庫を開けてグレープフルーツを取り出す。キウイとか、イチゴの方がビタミンは多いのだろうが、そんなものは麻生の冷蔵庫にない。
何もないよりはましだろう、と、食べさせるつもりでくし型に切って皿に乗せた。

しかし、そんなことを悠長にしている場合ではなかったのだ。
練から目を離すべきではなかった。
ものの数十秒後に、麻生は更なる激しい後悔に襲われることとなる。



「せ……いち……」
ソファーに突っ伏した状態の練からは、啜り泣くような声が漏れていた。
たった五分、目を離しただけだ。
なのに、事態は急変している。
両手で顔を覆う練を、麻生は慌てて抱き起こした。
息が荒い。脈も早い。顔は歪み、確かに練は泣きじゃくっていた。
この短時間に何があった? 信じられない心地で辺りを見回すと、割れたグラスの欠片に紛れて、銀色に光る小さな包みを見つける。
先程まではなかった。間違いない。
「お前、何飲んだ……!?」
震える声で麻生は問いかけるが、練からの返答はなかった。ただただ、泣き続けているだけだ。
よく見れば、包みは麻生にも見覚えがある。医者が処方する催眠剤で、それ自体ならさほど危険なものではない。
ただし、慢性化や、酒と併用することによって、時にとんでもない事態を招くことがある。
そう、今の状況がまさにそれなのだ。
「いや……、……っ――」
「練!」
腕の中で、練はやみくもにもがく。まるで麻生の存在など認識していないかのように、腕が背中に回ることはない。むしろ逃げ出したいとでも言うように、暴れた手が、頬を掠った。
瞬間、顔に走る鋭い痛み。
切りそろえられた形のいい爪が、勢いをもって皮膚を裂く。多分、そこからは血が滲んでいるだろうが、気にしている間もなかった。麻生はじくりとした痛みに気付かない振りをして、練の身体を掻き抱く。
「落ちつけ、練……っ」
何度も名前を呼び、練の背から片手を離すと、空を切る練の手首を捉えてぐっと掴んだ。しかし、そのあがき方といったら半端ではない。
元より力では練には敵わないのだ。
「いやだ……っ!」
「練っ」
練の抵抗は止むことがないどころか、ますます強くなっていくようで、思わず麻生は舌打ちをする。
アルコールのせいで薬は作用を増し、今の練はダウナートリップ状態なのだろう。やめろ、落ちつけ、とどれだけ声を掛けたところで、その耳に届いてはいない。ましてや力加減など、この状況ではできようもなかった。
「練……っ」
「……んんっ」
噛み付かれることは覚悟の上だ。
麻生はもう片方の腕が暴れ出す前に、練の口唇に自分のそれを力任せに合わせた。
「んっ――!」
「……っ――」
一瞬で、口付けは鉄の味に染まる。
びりびりと痺れる口唇に顔を歪めつつ、麻生は練に深いキスを施した。
官能を引き出すためではない。
戻ってこいと、そう願いながら、練の後頭部を優しく撫で続ける。正気に戻すことが、なによりも先決だ。
舌を絡め、やさしく吸い上げ、深さを増していく口付けに、強張った練からは少しずつ力が抜けていった。
「ん……、あ…ん……」
「……そう、いい子だ」
だらりと、張っていた練の腕が身体の脇に下がる。
キスひとつ、その威力は絶大であり、しごく単純な皮膚感覚は、複雑な言葉に勝った。脱力した様子からは、激しい抵抗などまるで嘘だったかのようだ。
それでも、口唇を離して間近に顔を見れば、目の焦点はいまだ合わないままで、しゃくり上げながら涙をはらはらと流している。
――伝手を当たって深夜診療が可能な医者を探して、いや、そんなことをしている時間なんかない。やはりここは救急車を呼び、一刻も早く処置させるべきか。
ぐるぐる回る思考の中、テーブルに置かれた携帯に手を伸ばそうとするが、今度はがっしりと抱きつく練の腕の強さに、麻生は身動きができない状態に陥っていた。
「練、大丈夫だから、少しだけ……な?」
「せ……誠一……っ、いく、な……」
必死に抱きつく練が発した名前に、瞬間、麻生の心臓が大きく鳴る。
「行か…ないで……」
――誰と、勘違いしてる?
耳を疑った。
誰と、だなんて、本当はそんなこと、訊かなくても明白だ。けれど、練がはっきりと告げた人物の名に、麻生の胸のうちには激情が沸き上がる。
――なぜ、今更。今、お前を抱いているのは、誰だと思ってる?
シャツごと麻生の身体に縋りつく腕は、麻生ではない男を求めているのだ。その事実に、生まれた苦い感情が、ものすごい勢いで身体の中に渦まいていく。
脳髄にまで、胸の鼓動がどくどくと鳴り響いていた。
「行く…な……」
自分以外の男の名を呼ぶ練は、縋る力をなおも強くし、決して離さないとでも言うようだ。
震えそうになる指先に、麻生はぐっと力を込める。
あんまりな展開だ。
麻生は携帯電話に伸ばそうとした腕さえも放り出して思う。
「――俺は、ここにいるだろ? なあ、練」
「ん……っ」
泣きじゃくる顔を両手で包み、瞳の奥で、亡き男の姿を追う練を見つめる。
「練、……戻ってこいよ」
それは、絞り出すような声だった。しかし、自分が今、泣きそうな顔をしているなどとは思わない麻生だ。
ただただ、締めつけられている胸の痛みに負けてしまいそうで、練の赤い口唇に口付けた。
「…ふ…ぁ、ん……」
先程よりも静かに、深く、舌を絡めて唾液を交わらせる。
縋っているのは、練なのか。それとも麻生の方なのだろうか。麻生は必死に練の口唇を求める。
「練……」
眉を寄せた練がゆっくりと瞼を閉じると、両の目からは、また一筋、大きな涙が零れ落ちた。
「……龍太郎」
開いた練の視界に、互いの視線が交わる。
麻生はもう何度目か、強く練の身体を抱きしめた。

「眠り、たいんだ」
怖ず怖ずと、練の手が背中を掴む。
「抱いててやる。こうしてれば、眠れるだろう?」
「……怖い」
「大丈夫だ」
麻生の言葉に、根拠なんかなかった。今は練を落ちつかせることだけが全てだ。
「大丈夫、このまま寝ちまえばいいんだから」
そう言ってから練の腰を撫で、シャツの裾から手の平をしのばすと、素肌の背をやんわりと辿る。ぴくりと、練の身体は反応を見せた。
きっと、こんな方法はずるいんだろう。
麻生はそれを分かっていても、他の手段を見つけることが叶わない。
耳に張りついた韮崎の名前が、麻生の劣情を煽っているのだ。脳内に反芻する声を、早く振り払ってしまいたかった。
「んっ、ふ――」
虚ろな練の口唇に、指の腹を当てる。少し力を加えるだけで、二本の指は熱い口内へと飲みこまれた。
長い指にねっとりと絡む、練の唾液。
「ん……っ、…ふ、ぅ……っ」
指を咥えさせながら、麻生は練のスラックスをくつろげ、やんわりと尻の肉を刺激する。抱きしめた身体はびくりと波打って、ぴったりと腹につく練の性器が、欲望を示しはじめた。
たっぷりと指が濡れたところで、揉むように動かしていた手をとめ、くっと、肉を外側へと押し開く。
「あっ、」
奥まった後孔の入口へ指を押し付ければ、練からは高い声が短く上がった。
何かに耐えるように、練の腕は麻生の背中に縋る。
「あ、あ……っ」
受け入れることに柔順なそこは、押し入る麻生の指を、いとも容易く咥えこんでいった。細かな襞は収縮を繰り返し、指をいやらしく包んでいく。
無意識下に、ごくりと麻生の喉が鳴った。
「ん…、っあ……」
練の内部が、いつもより確実に熱い。中は発熱を疑わせるほどの熱さだ。
その熱に触れることで、練の身体を襲う異常を肌で感じた麻生は、得体の知れない不安に苛まれていく。
手に負えないのかもしれないと、思ったことならいくらでもある。そのたびに迷う弱い心は、ひどく脆い感情を生み出し、それは消えることなく折り重なっていくのだ。
いつまで、自分は練を支えてやれるのだろうかと。そもそも、麻生に練を救ってやることは可能なのだろうかと。
「やぁっ、あん……っ」
内壁を探り、もっとも感じる場所に指の腹を重ねれば、びくんと、麻生の身体の上で練が跳ね上がった。
「りゅ、たろ……ぉ……っ」
とろりと、練の表情が溶けていく。
大丈夫だと、落ちていく思いを振りきるように、麻生は自分に言い聞かせた。
練の目には、麻生の姿が映っている。麻生の行為に、練は乱れているのだ。
感じている練を腕の中に、執拗に敏感な奥を擦り上げれば、とまらない甘い喘ぎが耳に響いた。
「病院……は、いかない……から」
「……うん」
「行かなくて、平気……だ…、あっ」
「分かってるよ。連れて行ったりしないから。だから、安心して達けばいい」
嬌声とは相反するような、不安げな練の声。
手探りにあがいているのは、麻生だけではない。練もまた、過去から逃げ出せないままに、苦しんでいるのだろう。
苦い思いに支配されながら、麻生は身体の下から突き上げるように、前立腺を激しく擦りあげる。
「あ、あぁ……っ」
いつしか、快楽に酔う練は、高ぶった性器を麻生の腹に擦りつけるようにして、快感を求めていた。その希求に応えるように、麻生も指の動きをいっそう早くして、練に官能を与える。
びくんと、大きく跳ね上がったあとに、練の腰が細かく痙攣を起こす。
「あ、あ……――」
練は熱い精液で下着の中を濡らし、がくりと、その身体から力を失った。
肩口を濡らす、練の涙。涙はシャツに広がって、麻生の肩を冷やしていく。
意識を途絶えさせた練を抱きながら、麻生は胸の痛みに口唇を噛み締めた。


夜はどこまで続くのか。先の見えない闇の深さは、あと何度、麻生と練を苦しめるのか。
疲れ眠る練の熱に捕らわれて、麻生は漠然とした未来を憂える。
分かっていても、現実に壁にぶつかるたびに、臆病になっていくのだ。

視線を上げて、散らばったグラスを見る。
蛍光灯の光を浴びた硝子片が、キラキラと輝いていた。
それはまるで、夜明けを求めてあがく二人を嘲笑うかのように明るく、乱反射して滑稽な二人の姿を照らし出す。
自分たちにはお似合いの、その安い光に向かって、麻生は嘲笑を返す。
ぐらりと、空がまわる、目眩が麻生を襲った。



  ***

  龍太郎のある一言、最後まで言わせるかどうか迷ったんです、これでもっ
  あまりにBL的な発言なので…
  ああ、原作は一般作なのに、ごめんなさい!!(逃)  2008.8