|
■44:ドレスと拳銃
これ、使えそう!と思ったお題でしたが、書いてみたら、思いのほか難航!
結局こじつけぽくなってしまった!(ぎゃ)
***
「あんたも、こういうタイプ?」
深夜放送の古い劇画を、狭いベッドの上でぼんやりと観ながら、練は龍太郎に訊いた。
「うーん……、俺センスないらしいからなぁ……」
「確かに」
「……お前、否定しろよ」
「できないよ。ほんとのことだろ?」
画面では、自他共に認める好色の紳士が、派手な女をスイートルームで口説いている。赤く、大胆なスリットの入ったイブニングドレスを贈られた女は、嬉しそう顔を画面いっぱいに見せた。指にはこれまた、男から贈られた指輪が光る。
「服とか、贈ったことあんの?」
「俺がか?」
「あんた以外に誰に訊くのさ」
すっとぼけた龍太郎は、だらしなくシャツを引っかけたままの姿で、ハイライトに火を点けてはふかし始めた。
練は俯せに寝転んだ状態で、肩手で頬杖をついて、隣に座る龍太郎を見上げる。困ったような表情をしている龍太郎が妙におかしい。
重量オーバーのベッドは、練の微かな笑いにも、ぎしりと悲鳴を上げた。
「まあ……贈ったことくらい、あるさ」
「へー。で、この主人公みたいに、喜んでもらえたわけ?」
「多分、喜んでくれたとは思うけど。振りだけだったのかもしれない」
龍太郎は過去を思い出しているのか、苦笑を零す。
その頭では、誰の顔を思い浮かべているのだろうか。練は、ふと、自分が奪った龍太郎の最愛の妻を思った。
記憶の中の彼女はけして派手ではなく、いつも落ちついたデザインの服を、うまく着こなしていた。あの中のどれか一枚くらいは、この男が贈ったものだったのだろうか。
もちろん、そんな話は二人の間ではご法度であり、訊けるわけもないのだが。
「店員に選んでもらったりもしたよ。確実、だろう?」
「ちょっと味気ないけどね」
「思いきり的を外したもんを贈ったって、かっこ悪いだけだ」
龍太郎はそう言うと、肩を竦めて見せた。かっこつけで、女にプレゼントを贈っていたのだとしたら、それはいかにも龍太郎らしい。いや、それが彼なりの誠意というものだろうか。
きっと、贈られた相手も喜んだに違いない。そして、そんな形でしか愛情を示せなかった龍太郎に対し、哀しくもなったのだろう。
あの女の望んだものも、本当は服なんかではなく、別にあったのだ。
「俺は、どんな服でも着てやるよ」
目の奥に浮かんだ玲子の姿を消し去るように、練は話の方向を変える。
両人にとって、触れたくはない会話に飛び火しては、せっかくの睦言も台無しだ。
「お前に、俺が服を贈ることがあるっていうのか?」
「例えばの話だよ」
体勢を変え仰向けになり、両手を組むと、天井に向かってぐっと伸ばす。長い間頭を支えていた肘が少しだけ痛んだが、筋が伸びていく感覚が気持ちいい。
連動するように、相変わらず貧相なベッドは、うるさいほどに鳴き声を上げた。
「例えばじゃなくて具体的に言えよ」
「俺はさ、あんたがくれるもんなら全部、受け取ってやるってこと」
「なんだそれ」
龍太郎の目がこちらを見る。視線が交わって、練は笑いを返した。
執着するというならば、龍太郎に対しての思いは底知れず、きりがない。この先どうなろうとも、彼を手放そうとは思えないし、だからこそ、彼の持つ不器用な愛だって受け入れてやるつもりでいる。
あの超ド級の不良刑事や、この男の元女房になんて、負けるはずはないのだ。
「だからさ」
交わった目線を外し、練は再び天井を見つめた。
「俺があんたに贈る拳銃も、受け取ってよね」
「……は?」
瞬時に動揺する龍太郎の様を、横目に見つける。
また厄介なことに足を突っ込んでいるのではないかと、練に対して懸念を抱いている心中が、ありありと見えた。
「お前、チャカがどうしたって?」
「どうもしてないよ。あんたんとこに、チャカが届く予定があるわけじゃない。これも、例えばの話だから」
「話が見えん」
「そうだろうね」
多分、練はこのまま春日組の幹部になる自分を止めることはできない。
山内練という人物自体が、これまでよりも確実に、社会にとっての罪悪たる存在と化すのだ。
それをこの、完璧な清廉居士が受け入れられるのか。練の贈る、違法という名の拳銃を、受け取ってくれる日は訪れるのか。
その答えは、今の状態の龍太郎ならば、限りなく不可能だと言える。
「……プレゼントひとつでモノにできんなら、簡単だよな」
テレビの中の女は、すっかり主人公の巧緻な人心掌握術に嵌っていた。利用されているだなんて思わないのだろうか、キングサイズのベッドの上に組み敷かれて、恍惚とした様子で微笑んでいる。
「意外に、人なんて簡単に騙されるもんだろ」
経験に裏付けられた発言なのか、やけに実感のこもった龍太郎の声だ。
「だったらあんたも騙されてよ?」
「馬鹿、誰がそんな簡単に騙されてやるか」
灰皿に煙草を押しつけて、龍太郎が笑う。
流れ続けるこの話の結末に、騙されていたのは、主人公の男だったという落ちがついたら? そうならば大どんでん返し、映画として評価に値するのに。
どちらにせよ、画面の外での現実空間では、物語より余程波乱に満ちた生活が待っている。
龍太郎は騙される単純な女ではなく、練もまた騙したつもりで騙されてやるような馬鹿な男ではない。
所詮映画は作り物だ。ありきたりな展開に眠くなってしまっても、今は隣に龍太郎がいる。彼は簡単にはいかない男、退屈している暇はないだろう。
「ねえ、もう一回やんない?」
「これ、観てるんじゃないのか」
「つまんないんだもん。まだ、寝たくない」
易々とは手に入れられない、誰よりも愛しい男が一人。
拳銃を受け入れられるその日まで、諦めるつもりはなかった。
***
深夜の古めかしい映画を観ている二人を妄想して萌えてみた。(病)
2008.7
|