■31:ポーカーフェイス

  
  エロって、本当に難しい……。
  長くなるだけで、要点をまとめることができないなっていつも思います(苦笑)

  


  ***

対面に座りこんで見つめ合う、ベッドの上。
「おい、放せよ練…っ」
「そんなにやりたくないなら、見てろってば」
練は龍太郎の腕をひとまとめにすると、ベッドヘッドに、解いたネクタイで縛りつける。
手首を縛っただけ、しかもかなり緩く結んであるそれは、龍太郎が本気になったならすぐに解くことができる程度の拘束だ。
だから、向けられた批難の言葉にも、取り合ったりはしない。文句を言ったところで、龍太郎も容易に解けることはわかっているだろう。甘んじて、練の悪戯に付き合っているのはあちらの方なのだ。
「お前は、本当に悪趣味な男だな」
「ほんとはやりたくてしょうがないくせに、平生を通してるあんたの方がよっぽど異常だよ」
欲望に忠実なれ。それのどこが悪いんだ、そう思う練だ。
龍太郎は目の前で盛大に息をつくと、態勢を変えて胡座をかいた。
練がそうたやすく屈することはないと、内心諦めたらしいのだが――。
「解けよこれ。煙草も吸えやしない」
「やだよ、煙草に逃げるから」
とことんまで焦れたらいいのだと、まるで子供みたいに拗ねる練は、鼻を鳴らして龍太郎の意見を突っぱねた。


「あんっ、あっ、…あ……」
立てた膝の間にある反り立つものを、速度を上げて擦りあげる。先から溢れ出す体液によって、ぐちゅぐちゅといやらしい音が、喘ぎ声に重なっていた。
「や…あん…っ、あ、あぁ……っ」
思い切り開脚した状態で性器を扱き、もう一方の腕は身体の後ろへ、体重を支えるようにつける。重心を腕に乗せ、腰を少し突き出すようして自慰を続けた。
高く上げた声は、少しばかり過剰な演出だ。しかし、それが全て演技かと言えばそうではない。
龍太郎の目には卑猥な全てが、丸見えになっていることだろう。こちらの勝手で視姦を強いているわけだが、練は見られているという事実に、興奮を覚える。
「…龍太郎……見て……、あ、ん…っ」
腰から全身に巡る快感の芽は、もはや細かな神経の先にまで達していた。そして欲望が囁くのだ、もっと強い刺激を与えろと。
そう、例えば、自分の手からではない、他人の手から与えられる強引な感覚が欲しいのだと。
ちらと、閉じた目を開け龍太郎を見ると、そこには無感情な顔があった。
――なんだよ、無理しちゃってさ! 練は心の中で毒づく。
「ふっ、うん…ん、あ……」
高ぶった茎を扱きあげ、感じる鈴口を小刻みに擦って、慣れた手は確実に気持ちのいい場所を弄っては自分自身を追いあげていく。吐く息は少しずつ速さを増し、喘ぐ声は震えて響いた。
断続的に腰がびくんと波打つ。
「もっと、して……、龍太郎…っ…」
再び目を閉じた練は、暗い視界で龍太郎の姿を思い浮かべる。
「…っ、いい……そこ…っ」
長くしなやかな龍太郎の指が、屹立を擦りあげ、先端を突き、裏筋を撫で、奥の膨らみや、会陰までもをいじめる。
「はぁ…っ、ん…っ」
にちにちと水音を立て、指の動きはいつも焦れったいほどに執拗だ。やがて、ようやく満足すると、次には後孔を捕らえ、入口を馴らしはじめ、ついに侵入を開始する。
「…んん……っ」
先走る体液をたっぷりと指の腹にまとい、練はそれを潤滑剤代わりに、中へと一本を突き挿した。後ろを弄るには少しぬめりが足らないけれど、今からベッドを下り、サイドテーブルの引き出しを開け、ローションを取り出す、なんてことはできそうにない。
「…っつ…、んっ…」
何しろ、瞼の下で幻の龍太郎は、動きを止めてはくれないのだ。今はその動きを追うことこそが重要で、少々の痛みなどは気に留めることができなかった。
「あっ、あ……っ」
増やした二本の指で、襞の中に前立腺を見つける。挟みこむように突起を押さえると、そこからは痛いほどの鋭い快感が、脊髄を駆け抜けた。
「あぁ…っ、あっ、ん……っ」
苦しい、と、練は眉をひそめて激しく喘ぐ。
思うに、自慰行為は、快楽と苦痛が紙一重なのだ。
縋りつくものもなく、快感を生み出す場所を自ら探ることはひどくつらくもある。強い快感は、自ずからコントロールを失わせるからだ。
それでも、気持ち良さを得るためには、手を休めるわけにはいかない。
「ひ…っ、あぁっ…や……っ」
声を上げながら、後ろで身体を支えていた手を口元へと当てると、飢えた熱い息がかかった。
その苦しさに練は、口唇に押し付けた人差し指の外側を、強く前歯で噛む。
「ふっ…、ん……んっ」
歯列の間から漏れる喘ぎ声は震えて、まるで鳴咽が混じったような泣き声だ。
もうこれ以上はと、びくびくと痙攣し、逸る身体が限界を告げはじめる。
「龍太郎…っ、や…ん…っ」
練の裡を掻き回しているのは、龍太郎の指ではない。それが耐えられなくて、とろりと溶けた瞳で、今目の前に座る男を見つめ、懇願の視線を送る。
無表情だったはずの龍太郎の顔は、口だけが少し歪んでいた。口唇の裏側でも、噛みしめているのだろうか。
「あっ、あ……っ!」
「……っ」
小さく、龍太郎から零れた舌打ちの音。
限界だと、彼もついには悟ったらしい。縛りつけていたネクタイから、器用に手首をひねって、先ずは一本を開放する。続けてもう片方の腕も抜き取ると、ベッドヘッドには結び目をつけたネクタイだけが残された。
「たいそうな嫌がらせだな、練」
拘束されていた手首を振って、龍太郎が言う。ようやく剥がれたポーカーフェイスの代わりに、余裕ない色が現れたようだ。
「…ん…、最初に仕掛けたのはあんたの方でしょ」
自分からしないと言ったからには、そう簡単に覆すことは矜持心が許さなかっただろう。
ざまあみろとでも言うように、練はにやりと笑った。



「ふぁ…っ、あああ……っ!」
ひくつく粘膜の中へ、高ぶる龍太郎のものがゆっくりと埋まっていく。
律儀にもローションをつけ足されたそこは、何の抵抗もなく、龍太郎を飲みこんでいった。
「あ、あんっ、ああぁ…っ…」
ざわざわと全身が痺れる。
練は背中をシーツの上に預けたまま、被さるように身体を覆う龍太郎の、首の後ろに腕を回した。
シャツの上から、その背中に爪を立てては縋りつく。
じっくりと抜き差しをされて、擦られる内側から生まれる堪らない快感に、腰が揺れた。
甘ったるい空気が漂うこの部屋の中で、甘ったるい練の嬌声が響き渡る。
「やぁ…っ、あっ、…あぁんっ!」
「練……、声、ちょっとは抑えろ」
顔をしかめる龍太郎が、乱れた息で告げるのは、まだ時刻が早いせいだろうか。今日は定休日だったけれど、そんなことを知らない客は、事務所の前までやってくるかもしれない。
扉の鍵はかかっているから開けることは叶わないが、声くらいは廊下にも漏れ聞こえるだろう。
もし、男の嬌声鳴り止まぬ今、探偵事務所を訪れた者が、一般的な感覚を持つ、一般的な善良市民ならば?
恐らく、二度とここへは立ち寄らないであろう。
けれど、だからと言って、この状況で声を抑えることなどできない練である。そしてまた、龍太郎も動きを止めることはない。
「あ…、あっ、あ…っ」
龍太郎が腰を使って、強い力で襞を押し開いては感じる場所に出入りする。
もう随分と焦れていた練の身体は、与えられる快感に貪欲だ。
「これも、嫌がらせのひとつか?」
「ち、ちが…ぁあっ…!」
そんなことを言われたところで、故意に声を出しているわけではないのだから、抑えられるはずもない。何しろこの身体は、快楽にひどく敏感に反応するように、もうずっと前から作られてしまっている。
肉体は気持ち良さに従順で、ましてや今練を抱いているのは、他でもない、龍太郎なのだ。
「何が違うんだよ、練」
「やっ……!!」
前立腺にエラの張った部分が当り、ごりごりと小刻みに擦られれば、言葉にならないほどの強烈な感覚に襲われる。粟立つ皮膚表面には、ぶわっと、鳥肌が立った。
「今日は、簡単には達かせないからな」
「……っ、ふざ…けんな…っ」
自分も大概猛ったものを持て余していたくせに、この発言。
――あんたはもう歳が歳だから、遅漏なんじゃないの?
そう文句を言おうと思ったけれど、与えられる絶妙な責めに、言葉は形にならず喘ぐことしかできない。
「ひゃ…っ」
意地悪く笑った龍太郎は、蝶の止まる胸に口唇を寄せ、ざわりとした舌を、乳首の上へ這わせた。
そこも弱い部分だ。透明な蝶が、ぱっと赤みを増す。
「あぁ…あ……、やだ……っ」
腰を掴んでいた龍太郎の手が、均整のとれた腰部のくびれ部分をねっとりと撫で、あらゆる場所から広がる快感のざわめきに、練の声には泣き声が混ざりはじめた。
後孔を抜き差しする、龍太郎の動きは終わりなく続く。
ひっきりなしにびくびくと痙攣する、自分の身体も止まらない。
「は…っあ、ああ…っ、あぁ…っ!」
神経を駆ける感覚に追いつかず、苦しさにとうとう涙が溢れた。嬉しいのか、悲しいのか、欲しいのか、逃げたいのか、感情はぐちゃぐちゃになってコントロールを失くす。
その苦しさは自慰の時とは比べ物にはならず、しかし、回した腕で感じる龍太郎の熱から得られる安心感は、言う間でもない。
あとはこの波に溺れ、翻弄され、全てを吐き出すだけだ。
どれほど快感の度合いが大きく深くとも、心配などは不要だ。縋る相手は、決して練をこの快感の海の中に見捨てたりはしないのだから。
龍太郎の優しい指が、流れ落ちる涙を拭う。
「もう…突いて……っ」
「まだだ」
「ん…っああっ……!!」
乳首をじゅっと吸われ、身体が仰け反ると、その瞬間に腰を撫でていた手によって、性器の根元を締めつけられた。脈打つものにぐっと力を加えられ、達したくてもそれは叶わなくなる。
「は、なせ…よ……っ、や、やぁあっ」
次は俺が焦らす番だ、とでもいうつもりか。
うちを擦る速度が、少しずつ増していくのは、根元を押さえられたからには、そう簡単に達することが出来ないからだろう。
ぴったりと密着した身体に縋り、練は耳元で叫ぶ。
「いや、…っ、はなせ……っ、いか…せて……っ!」
荒い呼吸の中では発する言葉すら片言だ。まともに言葉を紡ぐ力は、もはやない。
絞られたものの先端部分が、固い龍太郎の腹に触れては擦れては、――堪らなかった。
射精前のぎりぎりの感覚が長引くことも、やたらと意地が悪い龍太郎の責め方にも、全身が高まって仕方ない。
「龍太郎……っ!」
「……っ」
ひくつく入口が激しく収縮し、中の龍太郎を締めつける。ぐっと喉を鳴らして、蠢動を繰り返す練のうちに目を細める龍太郎だ。
中は再奥までいっぱいに咥えこみ、隙間などは少しもない。
「や…っ、も…、いいだろ…っ」
「……お前、反省してないだろ」
「してる、してるってば……ぁ…っ、あんっ」
反省などこれっぽっちもしていない練だが、それはそれ、今は早く揺さぶられることの方が大切だ。
もう限界は近いと、合った視線で互いに確認しあう。目線でねだり、自然に口唇が重なり合った。
ちゅくちゅくと舌を絡める間に、龍太郎は射精をせき止めた手とは反対の掌で、練の腰を掴む。
「んっ、んんん…――っ!!」
深く口付けをしたまま、龍太郎の動きは突然に速度を上げた。
肉がぶつかり合う音と共に、貧相なベッドが大きく鳴る。濡れた粘膜から出る淫猥な水音に酔い、練はキスの合間に切れ切れな息を吐いた。口腔を犯す舌は、突き上げるリズムに合わせるように、激しいものになっている。
「うん、ん…っ、んんっ……!」
練は、息がうまくできない苦しさに喘いだ。
このしばらくだけは、龍太郎の希望が叶ったわけである。塞がれた口に、喘ぎ声など上げることは叶わないのだ。
「ん、んんっ、…んあ、…ああぁぁ……っ!!」
しかし、声を封じ込めた口付けも、唐突に終わりを告げる。
途端可能になった呼吸に、一気に酸素が全身に回ったが、本格的に腰を打ち付けられるタイミングがキスの終わりに重なり、楽に息をすることは許されなかった。
「やぁあっ、だ…め……っ、達く……っ」
淵はいっぱいに広げられ、ぐぷぐぷと鳴りながら、猛る欲望の蹂躙に遭う。苦しさの奥にある絶対的な快感を受け、弱事を吐く声は、しゃくり上げるような泣き声と化した。
「もうだめ、だめだって……っ!」
「俺も、もう……っ」
質量の多いものを全て受け入れた腹が、不規則に跳ねあがる。龍太郎によって数回、思い切り突きあげられると、内股が痙攣し、練は全身に走った激烈な痺れに泣いた。
「ひゃ……ぁあ、ああああ…――っ!!」
「…くっ…――」
性器を握った手が解かれる。
その瞬間、練は絶叫と激しい震えの中で、欲望の限りを、触れた龍太郎の腹に向かって吹きあげていた。
背中に爪を立てた腕が、ぷつりと糸を切られたようにシーツへ落ちる。放精の衝撃に、指一本にすら、力が入れられなかった。

奥を濡らす、熱い体液を体内に感じたのは、多分、絶頂のみぎりとほぼ同時だったことだろう。



「結局、あっけなかったね。あんたの自制心なんかさ」
二回戦を終え、龍太郎のはだけたシャツから覗く腹の上に、頭を乗せた練が嬉しそうに言う。龍太郎の口にあるのは二時間ぶりのハイライトだ。
行儀悪く寝煙草をしゃれこむ様を眺め、頬を固い腹に擦りつける。
「最初っから抵抗しなきゃいいのに」
触れる髪がくすぐったいのか、龍太郎は顔をしかめた。
「あれはあれで、お前にとったら刺激的だったわけだろう?」
返事はせず、笑いだけを返す。
しょうがないなと、龍太郎も笑った。
「まだいけるよ、俺」
「もう充分だ。お前も、たまには早く寝ろ」
まだ夜が訪れてからいくらも経ってはいない。珍しく酒が切れている練が、こんな早い時間に眠れるわけはなかった。もっとも、アルコールが入ったからといって眠れるわけではないし、切れているとは言え、ここに訪れる前にはちゃんとバーボンを引っかけてきたのだが。
「こんな時間は、寝る時間じゃない」
「普通はマス掻くと眠たくなるもんだろ」
「マス掻いたんじゃなくて、セックスしたんだよ」
「屁理屈言うな。いいからほら、目、瞑ってろ」
どちらが屁理屈なんだと、言いかけた言葉を飲みこむ。髪を撫で始めた手の心地良さに、思わずうっとりしたからだ。
龍太郎は、練の髪の感触を好きだと言う。
「寝ちまえよ。大丈夫、眠れるさ」
練も、髪を弄られる感触が好きだった。
繰り返されるこの行為を味わっていると、瞼の辺りがふわふわとした感覚に覆われ、練は目を閉じる。そういえば、最近はまた、まともに寝ていなかった気がした。
少しだけ、乗せた頭の位置を上げれば、鼓膜には龍太郎の心音が届く。
浮遊感の中、眠りに落ちていく心地は、また違った至福の時間だ。
「おやすみ、練――」
声は柔らかに、練を包みこんでいく。
「ん……――」
きっと、とろけた表情をさらしているであろうことは明らかだけれど、龍太郎の前でなら隠すことはないように思えた。
今なら龍太郎も、同じようにでれた顔を、こちらに向けているのだろうから。



  ***

  そういえば、また縛ってた!!(ギャ)
  E系(ようするにエロ)を、もっと上手く書けるように、精進します!
  2008.7