■21:ヘブンズドア

  

  エロがワンパターンなので、違ったことしよう!と思ったら、やりすぎたかしら……(ギャ)
  酔っ払ったときだけの幸せを練に……。
  でも酔っ払ったときだけって、なんだか切ない…っ



  ***

記憶がないというのは、素晴らしいことだ。と、練は思う。
久しぶりに外の店で、へべれけになるまで飲んだ。
龍太郎に酒を勧め、飲ませて、飲んで、店の酒を大量に消費してきた。
練は気分がいい。なんたって、龍太郎もべろべろである。
普段ならば、夜とはいえ、街の中で堂々と練の腰に腕を回して歩くなんてことは、決してしない男だ。そう思うと、ますます練は嬉しくなって、龍太郎の肩に頭をすり寄せた。

――帰りたくない。
それはごく当たり前の欲求だろう。すっかり互いの気分が盛り上がっている。
とうに自制心など失くした二人が羽目を外すには、もってこいの夜だった。

こうして二人は、吸いこまれるように、安いホテルの扉をくぐる。
明日目覚めた時に、記憶が残っているかどうかも曖昧なのに、そんなことを考えるような頭を今は持ち合わせていない。
ただ、手足を動かすのは、己の欲求だけだ。



「あっ、ひゃ……ぁあ……っ」
シャワーの音に紛れ、練の嬌声がバスルームに響く。ボディソープを纏った龍太郎の手の平で、ゆっくりと全身の肌をなぞられ、身体はすっかり高ぶっていた。くまなくソープを塗られた肌は、艶かしく、浴室の明かりを受けて光る。
龍太郎は満足したように、手にしたシャワーヘッドから湯を出し、練の身体へと向けた。
腕に、背中に、そして首筋から、胸へと。
細かく、強い水圧に、びくんと大きく身体が跳ね上がる。
「やぁっ、…あ……っ」
がくりと折れそうになった膝を支えるように、背中に力を入れてタイルの壁に体重を預ける。まだ冷えたタイルに広がる、火照る身体の熱。
胸から脇腹、脇腹から下腹へ、焦らすように動く水圧を受ければ、たまらない腰の疼きが沸き上がった。
「あ、んっ……、あっ」
衝動に耐え、腕を伸ばして龍太郎の肩を掴む。与えられる断続的な水の刺激に、何かに縋ってなければ逃げ出してしまいそうだ。
しかし、肩を引き寄せたために、シャワーヘッドを持つ龍太郎な手は更に近付き、水は強く感じやすい肌を攻め立てた。
「いいのか? 練。ここに当てたら、どうなる?」
「あ……っ、もう達く、かも……」
「いいよ」
意地悪く届いた龍太郎の声。酔っ払っているのは確実で、口調だけなら平生と何が変わるというわけではないが、その責め方には、まるで理性のなくなった本性が表れている。いつもなら、余裕をなくした頃に始まる、龍太郎からの甘い責め苦だ。
シャワーヘッドを持つ手が下がる。
「ひ……っ」
次の瞬間、下半身から走った感覚に、練は大きく声を上げた。
「ああぁ……っ!」
すっかり天を向く熱い性器に、激しくぶつかるぬるい水。たちまち、待ち望んだ肉感に刺激を受けて、ぶるぶると身体が小刻みに揺れた。
目の前に立つ男の肩口に額を押し当て、その固い背中に腕を回して練は叫ぶ。
「ひゃっ、ああ……っ」
「すごいな、そんなにいいか」
「い、いい……っ、よぉ……っ」
近くから強く、そして少し遠ざけて焦らして、龍太郎の手は実に巧みだ。絶妙な強弱を与えられては、膝ががくがくと震えはじめた。
手で与えられるのとも、口で与えられるのとも違う快感が、全身に駆け巡る。頬から耳の裏、首筋にかけて触れられただけで、ぞくぞくと肌が粟立っていく。
おそらく、もう長くは持たない。
猛る性器が脈を打っている。
アルコールが大量に入れば、感覚さえも鈍くなりそうなものだが、今日の練の身体はとにかく熱かった。なんとも珍しく、龍太郎が理性を飛ばしているからかもしれない。
今日はどれだけでも、乱れることができる。何をしても、どんな淫らなことを求めたって、今の龍太郎なら受け入れてくれるだろう。そしてその淫乱な肉体を、こうして激しくいたぶってくれる。
「あ、あ、……っ」
頬をなぞっていた大きな手の平が、身体の脇のラインを辿り、腰骨をぐりぐりと押す。敏感な身体は、骨から伝わる痺れに酔い、限界を訴える。
内腿を通り、いやらしい動きをする指が会陰をぐっと押さえた直後、
「やっ、あああぁぁ……っ!」
びくんと、大きく痙攣する練は、頭を仰け反らせて、打ち付けられる水の中に白濁の精液を吐き出した。水音をも越えた喘ぎが、浴室に反響する。
「あ、あ……ん……」
絶頂の余韻は思考を麻痺させ、練は腹を波打たせたままに立ち尽くす。
龍太郎の手を離れたシャワーヘッドは、がたんと音をたてて、タイルの床に落ちた。ザァっと、止まない音が響かせながら、なおも床に水を撒き散らしていく。
水を止めることも、いっそ存在さえも忘れたように、龍太郎は練の顔を覗きこんだ。
「練」
「……龍太郎」
目を見開いたまま荒く息をつく顔を、龍太郎の両の手で包みこまれると、酒に酔い、快楽に酔う二人の視線が合う。
「ん……――」
引き合うように自然と、互いの口唇は重なっていった。
啄ばむような触れ合いからはじまり、それは次第に激しさを増して、口内を貪りはじめる。荒々しく、例えるなら、その口付けはまるで飢えた獣のようだ。
口と、口、粘膜の絡み合いは、性的感覚をたきつけて、一層の快感を希求する。
「早く、あんたの突っこんで」
意図なく口をついた、なによりも純粋な欲求。
夜はまだ長い。それでも、疼く奥を抱えた身体は、確かな質量で与えられる感覚を求めていた。
「もう欲しいのか?」
「ん、欲しい……」
声を遮る音が邪魔で、練は出しっぱなしのシャワーをようやく止める。二人が発する音だけが支配する狭い空間の中で、高ぶる気持ちに突き動かされるままタイルに跪くと、既に勃ち上がっている龍太郎の欲望に指を添えた。
――はやく、コレをぶちこんで! 起こる衝動に抵抗することなく、練はためらいもなく性器を口に含む。先走りに濡れるそこを、じゅっと音を立てて吸い上げた。
「……く……っ」
「んっ、ん……ぅん…」
龍太郎の腰がびくりと揺れ、にわかに高揚する練だ。
輪を作った指で根元を擦り上げ、感じやすい先端を舌でつつく。
口を動かすたびに、ひっきりなしに漏れ出る淫猥な音。そこに二人分の荒い息が混ざる。
夢中になってしゃぶりついていると、気持ちがいいのだろう、後頭部に回った龍太郎の手が、練の顔をぐっと股間に押さえつけた。
「…っ、ぐ……っ」
予期せず喉元まで刺さった龍太郎のものに、思わずえずきそうになる。
涙目になる錬は、その衝撃を無理矢理に飲みこんで抑えると、いっそう激しくそこを責め立てた。
水に濡れた下生えに鼻先を埋めたまま、龍太郎の腰を両側から掴んで、喉の奥まで咥えこんだ性器に吸いつく。
「んっ、ん……」
龍太郎の官能を引き出すため、懸命に舌を這わせれば、確実に硬度を増す高ぶり。 頭を押さえつける力が弱まったのをきっかけに、根元まで飲みこんだものを、練はすぼめた上下の口唇で包みこむ。その口で、入り口から喉奥まで、速度を持ってディープスロートを繰り返した。
「……っく……っ」
じゅぼじゅぼと、いやらしい音が響く中、龍太郎の顔が歪む。練はすぼめた口唇に更なる力を入れ、激しく頭を前後させた。
感じている龍太郎の姿が、何よりも身体を熱くする。
そんな姿を見れば、自分が習得したこの碌でもない技も、無駄ではなかったと思うのだ。龍太郎を、こうして乱れさせることができるならば、どんなセックステクニックも無用ではない。
「達、く……、練……っ」
「んっ、ん……っ」
いっぱいまで飲みこんだ口では頷くこともできなかったが、言葉が出せない代わりに、思い切りそこに吸いついてやった。
ぐっと歯を噛み締めて、小さく声を出した龍太郎が、熱い体液を口の中にぶちまける。
口の中から広がる、独特の匂い。練は飲み下したくなる欲求を抑え、自分の手の内にぬめった液体を吐き出した。
「挿れて? 龍太郎」
じくじくと快感を求めて痛む身体に、練はねだる。
慣らされる時間さえも、はやる身体には億劫だ。
ほんの少し上気する龍太郎の顔を、下から見上げて、達しても萎えきらないその性器を片手で擦り上げた。
その手の動きを止めないまま、練は手の内の精液を指に絡め、自ら疼くすぼまりに素早く塗りつける。指の先を中へと忍ばせれば、肉体を襲うのは、鋭い快感だ。
自分の指を這わせただけで分かる。そこは既に、飢えてひくついていた。
「苦しいよ、龍太郎。早く、掻き回して」
息を飲む龍太郎の喉の音までが伝わるような浴室に、理性をなくした男が二人。
あとはただ、淫靡な劣情に飲みこまれていくだけだ。



「あっ、あぁっ、……りゅ、…たろう……っ」
ぶつかる肉の音と、濡れた粘膜の水音が、その行為の激しさを物語る。
練は膝をタイルにつけた四つん這いに似た体勢で、バスタブの淵に縋りつく。後ろからは、龍太郎の怒張したものが、襞の中を強く擦り上げていた。
「龍太郎、いい…っ、あぁんっ、ん……っ」
「練……、練……っ」
与えられる強烈な快感に打ち震え、しかし、それ以上に身体を高めるのは、名を呼ぶ龍太郎の声だ。龍太郎が熱くなればなるほど、練の心は満たされていく。
「あ、あんたも……気持ち、いい……? 俺の身体で、感じ…てる……?」
「感じてる、……当たり前だ」
「よかった……、あっ、あ……っ」
余裕のない龍太郎の声に煽られ、練の身体から上がり続ける、甘い喘ぎ。
腰の動きはますますいやらしくなって中を暴れまわり、感じる場所を、最奥までを犯す。
その腰使いに、強い、と練は泣き続けた。力加減を忘れたようなその強さが、練の全身を痺れさせる。
「い、あああぁぁ……っ!」
激しすぎる動きがつらいはずなのに、止まらない声に苦しくなる呼吸も、ひりつくような後孔も、今は全てが快楽を煽っていくようだ。苦しさも、痛みも、鋭い感覚はみな、官能へと繋がっていく。
揺さぶられるたびに走る強烈な快感に、開いたままの口からはだらしなく透明な唾液が、バスタブの内へと垂れていった。
「いいよ……、練……っ」
「ん……、俺も、いい……っ、あんたがいい……!」
龍太郎の言葉は練を、練の言葉は龍太郎の性欲を掻き立てる。箍を外した今夜の二人には、怖いものなど、何もなかった。呆れるほど素直な言葉によって、際限なく身体は乱れていく。
「あっ、やっ、ああっ、そんな……つよい……っ」
言葉の威力。それは時に、与えられる肉体の刺激をも凌駕する。
「練……、愛してる、練……っ」
「っ、…や……っ」
すぐ後ろで発せられた龍太郎の告白に、練の胸に走った衝撃は例えようがなかった。
「愛してるんだ、……練――」
腰を打ちつけながら送りこまれる快楽と、愛の言葉。こんな時に、やめて欲しいと、思わず泣きたくなる。
「いや……、龍太郎……っ、あんっ、ああっ……」
それ以外の言葉など、忘れてしまったかのように繰り返す龍太郎に、練の身体が震えた。
酔っ払っているにしたって、タチが悪い。
なんて男だと、心中で吐き捨てて、奥歯を強く噛みしめた。龍太郎からは見えない顔が、切なさに歪む。
もう言わないでと、告げたい言葉は、嬌声に消されて声にはならず、耳に届く龍太郎の言葉も、バスタブに縋りつくのがやっとな腕では塞ぐこともできない。
「い、あぁ……っ、は、……んっ」
身動きとれない状況の中で、快楽は脊髄を犯し、声は脳髄を犯す。幸せなのに、やるせない、なんて複雑な心模様だろうか。

明日になれば、きっと龍太郎は今日のことを忘れているだろう。
明日になれば、一緒に風呂に入ることにすら抵抗する、薄情な男に戻るのだ。

「達く、達……くっ……あっ」
「練……っ」
「い、あああぁぁぁ……っ!!」
響き渡る絶叫と共に、練の瞼からは涙が零れて落ちた。
落ちた涙は水滴に混ざって溶けて、一瞬でその存在を消していく。
あとどれだけの『愛してる』を、今夜は聴くことになるのだろう。それが龍太郎の本心なだけに、現実がつらいのだ。


記憶がなくなるというのは、悲しいことだ。と、薄れゆく意識の中で練は思う。
目覚めた時に、この記憶が、龍太郎の中に残っていればいいのにと。
多分、叶えられないだろうと分かっている想いを、強く、練は願った。




  ***

  the 水責め。(最低だ)
  龍太郎の発言がアレなのは(あれ?)、酔っ払っているからです!!(逃っ)
  2008.7