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■20:突然の訪問者
誠一にぼっこぼこにされて(苦笑)入院中の練と、及川さん。
この二人の関係も不思議なもので、好きなのです。
愛情とは呼べないけれど、過去から連なる運命のイタズラがあるようで(笑)
若干ではありますが、暴力的なシーンが含まれますので、ご注意下さいませ!
***
「何のご用ですかね? 及川警部さん」
白い病室で、白い包帯に身体のあちこちを覆われ、白いシーツの上に埋もれていた。いまだ血の気が引いたままの白い顔で見つめた先には、異色なほどに場違いな、足先まで真っ黒な刑事が一人。
ダークグレイの三つ揃いのスーツを着こなしやって来たのは、マル暴畑の敏腕刑事、及川だった。
「今は私もこんな状態でね。もっとも、刑事さんにお話出来ることなんて、元よりありませんが」
「相変わらずその軽い口だけは、よく回ってるじゃねえか」
言葉と同時に放られた小さな箱が、練の額に当たってベッドの上へと落ちる。
ダンヒルのメンソールだ。
「差し入れだ」
「これはこれは、お気遣いありがとうございます」
仰々しい口調を崩すことなく礼を言えば、及川は片頬をぴくりと動かし、不快な顔を見せる。
「もういいだろう? 今のうちに逃げちまえよ」
扉の傍からこちらに向かって歩き出した及川の言葉に、今度は練の眉が動いた。
「またこんなボコボコにされて、殺されかけて、義理立てする理由なんかねえだろ」
「それは、あんたが干渉することじゃない」
及川がすぐ傍に立ち、哀れなほどに包帯だらけの姿を見下してくる。だがしかし、練は怯むこともなく、その鋭い視線に返した。
「俺のこと思ってくれんなら、いい加減ほっといてくんない? それともさ、あれ? 俺が誠一に義理立てしてるって言うなら、さしずめあんたは、愛しい”龍太郎”の尻拭いのつもり?」
「……っ!」
がっと、包帯からはみ出た髪の根本を、力いっぱいに掴まれる。頭皮が引きちぎられそうな痛みに顔をしかめたものの、それでも言葉は止まらない。言わずにはいられなかった。
「俺も誠一も馬鹿な男だけどさ、あんたも大概馬鹿な奴だよ」
「黙れ、この腐れ外道」
「何だよ、否定出来ないくせに」
及川は掴んだ手を一度強く引き寄せてから、押し倒す勢いをもって髪に絡めた指を離した。
「…ちっ……、いってえな、もう…」
じくじくと疼き始めた頭の皮膚に、練は馬鹿にするような、茶化すような文句を放つ。
「……あ、それかいっそ、あんたが俺を引き取ってくれる? この前みたいにヨクしてくれんなら、俺はあんたでもいいよ。あんたも誠一も似てるんだから」
「あんな男と一緒にされるなんざ、甚だ不愉快だ」
心底嫌そうな及川の顔だった。練はおかしくて、大きく笑う。
乾いた笑いは、しばらく止めることが出来ず、病室の中は、奇妙なほどに張り詰めた空気に満たされていった。
「ちょっとは黙れよ、ド変態野郎が…っ」
「…つ…っ……!!」
ドスの効いた声が響くと同時に、凶暴な手が、患者衣の上から股間部分をぐっと掴む。
練は激しい痛みに、思わず声を上げた。
相手は立ったままだ。体重を掛けるように力を加えられれば、その激痛と来たら半端ではない。
「たった数日の禁欲生活で、頭がイカれちまったのか?」
「……く…っ…」
「ああ、そりゃ以前からだな」
何が愉しいのか、及川は綺麗な顔に侮蔑を浮かべて笑い出す。その指は力を入れたままに、敏感な場所を押さえながら、ぐりぐりと回し始めた。
「く、ぅ……っ」
痛みに混ざって、ざわりとする感覚が腰から沸き上がる。泣きたくなるくらいに卑劣な男だ。
「流石だよ、この淫乱。だんだん硬くなって来てんぜ?」
「安心しろよ、あんたも相当だ…、……っ」
容赦ない及川の責め様から逃げることは、がっしりと押さえられた肩によって許されない。練はまだ、とても本調子とは言えないのだ。骨も、大分がイッてしまったらしい。
もっとも、この場で抵抗したならば、現行犯でしょっぴかれることはまず間違いがないだろうが。
結局、無理に喘がされた練が開放されたのは、下着のうちが、生暖かい体液に溢れた時だった。
濡れた感触の不快さに口唇を噛みながら、練はダンヒルに火を点ける。吸いかけの自分のパッケージではなく、及川が持ってきた、新品のそれだ。
勝手にしろと吐き捨ててから、及川は踵を返して部屋を出ていった。
「は……とんだ迷惑なデカだな」
日が昇るこの世界に繋ぎ止めようと、必死に練に向かって手を伸ばす人間がいる。及川も、数少ないうちの一人だったのだろう。もう二度と、手錠を掛ける目的以外で迎えに来ることはないのであろうが。
練は疲れていた。あの夏の日からずっと、目の前に在る世界が暗い。
ここを出たら、また誠一の元へ戻る。それは抗えない、本能の希求だ。
「龍太郎……か――」
煙を深く肺の中に満たして、息を吐く。紫煙の味はいつもと同じはずなのに、今日はやたらとそれが苦く感じられた。
こんな味の煙草なら、贈ってくれなくとも結構だ。吸いかけの手持ち煙草なら、きっと苦くなんかない。
練はまだいくらも短くはなっていない一本を灰皿に押し当て、持参のダンヒルをくわえて火を点けた。
残りの十九本は、もう今の練には要らないものなのだ。ごみ箱の中へと捨ててしまおう。
未練なんか、とっくの昔になくなっているのだから。
***
妄想の産物です!
そして及川純という人物を掴みきれないもどかしさ…っ(part2)
2008.8
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