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■19:鳥籠(とりかご)
まだ黒夜にハマりたての頃、みんなの名前で姓名判断をして遊んでまして♪
その姓名判断の、相性診断の結果に笑ってしまったために、ネタとして書いた一作。
携帯小説を読む前だったので、龍太郎が練の家にいる設定です!
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「さっきから、何いじってるの」
「ん? いや、面白いもんだと思ってさ」
尋ねる練に、龍太郎はパソコンの画面を見つめながら言う。
「インターネットの世界って、まだよく分からなくてな」
「これからはパソコンの時代だよ」
「そうらしい」
今よりずっとパソコンが普及していない時代から、練の興味はこの機械にあった。便利な箱の利用価値は未知数だ。
インターネットに関しても、世界に繋がる画面は情報の宝庫である。この媒体への抵抗を感じたことはなかった。
ただし、溢れる情報の中で、是非という判断は個人に委ねられるわけだが。
「何見てんの?」
「なんか、姓名判断してくれるらしくって」
「姓名判断?」
龍太郎が思わぬ言葉を吐いたことに、練はついつい笑いを零した。占いなんて、あまりにこの男には似つかわしくない。
「へー、それで?」
「そんなに悪くないみたいだ」
「あんたの名前が?」
「ああ」
ローテーブルに置かれたノートパソコンに向かう、胡坐をかいた龍太郎の背中を、練は離れた場所から眺める。同じく、テーブルの上に置かれたグラスは、溶けた氷の透明な液体が、照明を受けて輝いていた。煙草も、そう言えばしばらく手を付けられてはいない。
やけに楽しそうに見えるその後ろ姿に、練は含み笑いを堪え切れなかった。
「なに笑ってる」
「別に」
漏れた息に、こちらを見てはいなくとも、気配が伝わったのだろう。笑い続けていることを指摘される練だ。伊達に龍太郎も、二十年も刑事をやっていたわけではない。
練は空になったグラスにバーボンを入れて、龍太郎の傍へと近付く。毛足が長いラグの上に腰を下ろすと、龍太郎の後ろから肩ごしにパソコンの画面を覗きこんだ。
スクリーン上には龍太郎のフルネームが表示され、総運、外運などと自動で出された結果に吉、小吉などの評価が浮かぶ。確かにそこでは、悪くない姓名だと判断されていた。
生まれた子供の名を決めるに当たって、一件いくらで商売をする姓名判断師も多くいるだろうが、こんな簡単に判断がつくならば立場がないのではないかとも思う。とはいえ、信憑性に関してはなんとも言えないものの、どちらにしろ姓名の善し悪しなどには興味がない練である。
「相性診断もあるぜ」
「相性?」
単純に面白くなった練は、同じ画面上に見つけた更なる姓名判断の占いに意識を向けた。
「あんたと俺でやってみる?」
練は左手にグラスを掲げたまま、後ろから伸ばした右手で、龍太郎の握るマウスに手を重ねる。練の胸は、ぴったりと龍太郎の背中に張りつく。自然、顔の位置も触れ合う寸前だ。
戸惑う龍太郎には構わず、下になった龍太郎の手を払い退けると、『相性診断』と表示されたアイコンをクリックした。
「どかないで」
無理のある態勢に龍太郎が動こうとするのを、言葉で制止させる。息がかかるほど間近で、耳元にそう囁きかけた。
一瞬身じろいだ龍太郎に、練は満足して、器用に右手だけでキーボードを打つと、画面に二人分の名前を入れる。
そして、順に『診断する』とあるアイコンを押した。
「相性、……凶?」
龍太郎が読み上げた結果に、練は思わず吹き出す。
「悪いじゃないか」
「うん、悪い」
龍太郎の肩口に額を押し当て、練は声を出して笑った。
「やっぱりね、こんな結果だろうと思った」
「なんだそれ」
「あんたと相性なんて、いいわけないじゃん」
「こんなのただの占いだろ」
マウスを握る右手を離し、ひとしきり笑った後で、手にした酒を飲み干す。別にこれっぽっちも悲しくなったわけではなく、純粋に面白かったのだ。
ただ、その間練は、龍太郎の背中に頬をすり寄せたままだった。
「何がそんなに面白いのか、俺には分からんぞ」
「いいよ、分かんなくって」
呆れ声の龍太郎は、肩を竦めて見せてから、後ろをちらり振り返る。
「俺も、酒。貰うぞ」
そう言って立ち上がり、酒瓶が並べられたサイドボードへと歩き出した。選んだバランタインのボトルを手に、龍太郎はキッチンへと消えていく。既に溶け切って水と化した中身を捨て、新しい氷を入れるためだろう。
一人になったリビングで、練は結果の出た画面を再び眺める。
また、笑ってしまいそうだ。『凶』の文字の下には、『相性・31%〜40%』という簡単な解説があった。
ふと、思いたって、もう一度マウスを握る。
素早く、慣れた両手の指先でキーボードを叩き、練はパソコンを見つめた。
――最高に下らない!
練はインターネットのウィンドウを丸ごと閉じる。
何度目かに出た笑い声は、何故か少しだけ掠れて響いてから、空気に消えていった。
「さっき、また笑ってなかったか?」
「もう一回結果見たら、また面白くなったんだよ」
「変な奴だな」
「うるさい」
グラス片手に戻ってきた龍太郎が揶揄するのを、練は心地よく受け入れる。
馬鹿みたいに、少しだけ動揺していた胸のざわめきを無理矢理振り払って、隣に座る龍太郎に凭れかかった。熱い体温が、練に移る。
韮崎誠一。
忘れようのないその名前を、自分の名前と共に、無機質な文字でスクリーンに映した。
ただの出来心だ。
しかし、その結果の皮肉と来たら、どう表現していいのか。
映し出された『大吉』の表示に、練はせり上がって来た衝動を身体の外へと吐き出した。
――安心して。あんたは、今でも俺のことを縛ってるんだ。
その思いはまるで泣き言めいていて、漏れた笑い声は妙に歪んでいた。
いまだ捕らわれて、想いを抱えたまま、縛られ続けている。
鮮明に浮かぶ誠一の顔が、艶然と練に微笑む。
逃げられないと、分かっていた。逃げるつもりもないと、誓っていた。
一生を縛りつけるその男の名を、練は声には出さずに呼んでみる。
「練?」
いまだ、その名を呼べば締めつけられる胸に、練は龍太郎に縋る腕に力をこめた。
***
もはやお題に無理矢理合わせている…っ
色んなところを妄想で補っている、稚拙な一作、お粗末さまでした…!
2008.6
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