■1:長い夜の過ごし方

  激甘注意報!
  遊びでポーカーをしていたのが、元ネタです。
  ジョーカーって、素敵カードですから……笑。

  ***

ベッドの上に、山を作っては、散らばっていくカード。
麻生と練、互いの手持ちカードは五枚ずつだ。さっきから、この五枚に描かれた数字とマークに一喜一憂しているわけだが――いい大人が二人して、少々滑稽な図であることには違いない。
「レイズ」
「……コール」
自信たっぷりの表情を見せる練に、麻生は内心はらはらとしながら、勝負に応じる合図を出す。もちろん、顔には感情を出さない。
なにしろ、今は『ポーカー』勝負の真っ最中であった。

どうしてカード対決になったかと言えば、これこそとても人には言えない、下らない理由だ。
今日も不法侵入、我がもの顔で居座っていた練と、帰れ、帰らないの押し問答。挙げ句、いつもの強引さに負けて練のお泊りは決定したものの、今度はセックスをするかしないかで衝突だ。
十代の子供でもあるまいし、はなはだ無意味な言い争いの末の駆け引きである。
結局、練の提案による賭けポーカーに、麻生の今夜の予定は委ねられることとなった。


「ストレート」
ショーダウンして練の手に並ぶカードに、麻生は溜め息をついた。ここへきての負けは少々つらい。
向き合って座る窮屈なベッドの上で、二人の間に置かれたチップは、半分以上が練の手のうちだ。
チップと言っても、急遽決まった対決に代用したものは、大袋に入ったチョコレートである。点数を変えるために、種類違いのものがふた袋も開けられた。
両端をきゅっと結ばれた小包装のチョコが、賭け金代わりにシーツの上を彩っている。
何度も手に握られ、熱に溶けたチョコレートは、もうクライアントへのお茶受けとして出せようはずもなく、甘いものを食べない麻生は、このチョコレートの行く末も少々不安なところだ。練が食べてくれたらいいのだが。
「もう次が終わりだけど?」
麻生側の手持ちのチップ、ならぬチョコを見て、練がにやりと笑う。決めておいた勝負数の残りは、わずか一回。当初の手持ち金の半分ほどになったチョコレートは、この最終面で勝ちに行けるぎりぎりの数だ。
「全部賭けるさ、勝負だ」
まだ勝つチャンスのある、いいゲームにはなった。
右手でチョコレートを残らず掴むと、ぐっと前に出して全てを賭ける。
練としてはそこでドロップしてしまえば自分の勝ちが決まることになるが、それをしないだろうことは、麻生の計算のうちだ。

もとは高々一晩の身体を賭けての馬鹿みたいな話だったわけだが、すっかり勝負事に熱くなっている自分たちが、そこにはいたのである。


「オープン」
これはいける、と思っているのか、練の表情は明るいものだ。
麻生の有り金全てを投じた最終回だけあって、もはや駆け引きが行われるわけではない。だからこそ、ありありと表情を出しているのだろう。
おそらくこの手なら勝てるだろうと、踏んでいるようだ。
「フルハウス」
開いた練の手には、クイーンとセブンのカードが並んでいた。確かに、役の強さとしては上から数えて四番目、通常出し得る手としては見事なものである。
「あんたは?」
「ん?」
得意げな練に対し、麻生は小さく笑いながらカードをシーツの上へと開く。
「フォアカードだ」
瞬間、ぱっと表情が変わる練に、浮かべた笑みは深さを増した。
勝負の最中には完全なるポーカーフェイスで翻弄してくれた練だが、この姿はなかなかに可愛いものがある。
「なにそれ」
「だからフォアカードだろ」
「ジョーカー二枚も入ってんじゃん! そんなん、キングとジョーカーのツーペアだ」
「何だよ、最初にワイルドポーカーにしたのはお前だろう?」
万能なジョーカーに助けられての一発逆転だ。
ジョーカーはどんな役にでも代わる。ゆえに、これはフォアカードと言っても差し支えはない。それを主張するのも大人気ないが、かといって、ではツーペアだと告げるのも、嫌味にしかならないだろう。
練は口を歪めて、顔を背けている。しかし、口元を見てみれば、全くの不機嫌というわけではなさそうだった。
「なんだよ、遊びだろ」
「そうだよ、あんたの身体を賭けたね」
「提案したのも、最後に乗って来たのもお前だ」
「そうだけど」
ただセックスがしたかっただけなら、別にこんな勝負をしなくたってよかったはずだ。腕力では人に負けない自信がある麻生も、本気を出した練と力勝負をしたなら際どいところだろう。ましてや不意を突かれたなら、確実に勝てない。彼もまた、人の急所というものを心得ている。
押し倒され、上に乗られて性感のひとつやふたつを刺激されたなら、落ちてしまう自信があった。全く情けないことだが。
それは練もよく分かっているだろうから、事に持ちこむのは容易いだろう。
とすれば、彼はこの思いついた遊びを、純粋に楽しみたかっただけなのかもしれない。

ただ、妙に律儀なところがある男だ。
自ら持ちかけたからには、今日はもう手は出して来ないのだろうか。そう思うと、残念な気もする、調子がいい麻生である。
「むくれるなよ」
麻生は随分柔らかくなったチョコレートをひとつ、フィルムの包装紙から取り出すと、横を向く練の口唇のうちへと指を入れた。
柔らかなそこに触れた指先から、じわりと熱が伝わる。ほんの一瞬だけ小さな粘膜音とともに熱い舌に触れ、チョコレートは練の口に中に溶けていった。
「もういいよ、俺も意地張ったんだ」
「……何がいいのさ」
「好きにしろってこと」
楽しませてもらった礼に、今夜の予定など、練の好きにさせてやってもいいと思う麻生だ。
どうせ自分がいい思いをすることは、目に見えている。何をむきになっていたのか、たった一時間ほど前のことが、もはやよく思い出せない始末だった。
勝負に勝つも負けるも、どちらにせよ練の思惑通りになったわけである。練が果たしてどこまで考えていたのやら。


「結局篭絡されるんだな、俺は」
「お人好しだもんね、あんたって」
口付けた練の口唇の甘さに、麻生は眉をひそめる。
やはり甘いものだけは好かないと思いながら、更に甘い、練の口の中へ舌を滑りこませた。
残るチョコレートの後味よりも甘く、長い夜は、まだここから続くのである。



  ***

  賭け金ならぬ、賭けチョコレートの数など、突き詰めると疑問が残るので、どうかスルーしてやって下さい、笑。
  リアルを求めない方向で……(求めなさい!) 
  2008.7